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| はじめに 透析中の血圧低下は、透析継続が困難になったり、患者に苦痛をもたらすほか、内シャントの閉塞や脳梗塞などの合併症につながり得る点で、注意を要する合併症である。 本稿では、次の各項目について述べる。 |
一方血圧は、
(血圧)=(心拍出量)×(末梢抵抗)
であらわされる。これはオームの法則の、
(電圧)=(電流)×(抵抗)
に似ている。
血圧を規定する2項目のうち、心拍出量は心機能と循環血液量によって決まり、また末梢抵抗は自律神経(中でも交感神経)とその神経化学伝達物質でもあるカテコラミンの作用などによって左右されている。
したがって血圧が低下する場合は、心機能の低下、循環血液量の減少または自律神経系の機能異常などのうち、一つ以上が存在することになる。
| 図1 除水と血圧低下 |
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ここで自律神経障害があったり、降圧薬を内服していたりする場合などには、上記の昇圧反応が起こりにくくなる1)。
第二の要因は、透析そのものにある。透析の進行に伴い、血清浸透圧は低下するが、まさにそのために、循環血漿量は間質へ拡散して減少しやすくなる。図2はこれを模式的にあらわしたものである(理解の便宜のため極めて模式的にあらわしており、実際とは異なっている)。透析しないで限外濾過のみを行うECUMでは、血行動態が安定しやすいのはこのためである。
| 図2 透析だけでも血圧が低下する |
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さらにこのほかにも、サイトカインや透析液中の酢酸の影響、アナフィラキシー様反応、透析中の電解質変化(特にK低下)など、体外循環と不可分な理由によって血圧は低下しやすくなる。またこれは原因がまだ解っていないが、透析者では血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の産生が高まっているとの報告があり、これも血圧低下に関与し得る3)。
| 表1 血圧低下を招きやすい患者側の条件 |
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1)小児および高齢者 2)体重が少ない 3)心疾患の合併 (急性心筋梗塞・陳旧性心筋梗塞・高血圧性心疾患・心膜炎) 4)動脈硬化が強い 5)自律神経障害を有する(特に糖尿病) 6)感染症の合併 7)出血や脱水の合併 |
このうち心機能について考えると、透析者においては、狭心症や心筋梗塞、高血圧の合併が多く、またアミロイドーシス・糖尿病などが心筋自体の変性をもたらす場合もあり、さらに溢水、貧血、内シャントの存在、代謝性アシドーシス、二次性副甲状腺機能亢進症など、多くの条件が心機能に悪影響を及ぼす可能性がある2)。
| 図3 血圧低下の時期の分類 |
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まず終了前に血圧低下をきたす群では、その原因は、患者の体重管理が不良で除水量が過大な場合か、ドライウェイトが低すぎる場合のどちらかが多いようである。このふたつは同時に存在することもある。つまり食事摂取量が多いとしばしばドライウェイトが上がって(つまり太って)くるが、これが 治療条件上にすぐに反映されない場合がある。またこの群の特徴として、透析後半や透析後にしばしば筋けいれん(いわゆる『ひきつれ』)がおこったり、嗄声を伴ったりしやすい。
次に昼食時に血圧が低下する群であるが、食事摂取時に起座位になったり、また食事摂取自体により消化管などへの血流が増えて、静脈還流量(=心拍出量)が低下することが原因であるが、高齢者・動脈硬化が強い症例・糖尿病例などで、このタイミングでの血圧低下が起こりやすい。
最後に透析を開始して間もなく血圧が低下する場合であるが、我々の経験ではこういう場合は重症者で全身状態が不良の場合、特に急性心筋梗塞などの重大な心疾患を合併したときに見られる。
開始後の1時間以内、特に最初の30分に突然血圧低下がおこる。ただし補液や中断などの手段でこの時期をしのげば、その後は必ずというわけではないが、案外と平穏な経過で終了することもある。
もし普段安定していた患者が、突如このような透析経過を示してきたら、そのときは新たな心疾患の合併などを疑う必要がある。
| 表2 血圧が低下したときの対策 |
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このうち補液については、製剤間で治療効果に差がある。
生理食塩水(生食)は、多くの場合回路に接続されており、すぐに補液できる点で便利である。
補液にグリセオールやマニトールを使用すると、これらは高い浸透圧によって血管外の体液を血管内に引き込むため、補液量以上に循環血液量が増加し、昇圧につながる。ただし、これらは透析性もあり、また毛細血管壁を透過して細胞外全体へも拡散し得るため、上記の臨床効果は一時的である。
アルブミン製剤や輸血、または低分子デキストランの場合、浸透圧は血清と同等だが、長期間血管内に留まるため、補液効果が長く続く。
ただし、予防は治療にまさる。透析中の血圧低下を予防するために行われている一般的な対策をまとめると、表3のようになる。このうち左側のコラムは、どちらかといえば血液浄化技術に関連する項目で、右側のコラムはどちらかといえば患者管理に関連している。
| 表3 血圧低下を予防する対策 | |
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これらの対策を実施しても、なお通常の血液透析が困難な場合には、一時的にせよ血圧に対する影響がもっと少ない手段、例えば持続緩徐式血液濾過術(CHF)などに頼らなければならない。
また、自動血圧計などを利用して頻回にバイタルチェックを行うことは、血圧低下を早期に察知してすばやく対応するのに有用である。
表3に示した対策の中で、おそらく最も問題になるのは、どうやったら適切なドライウェイトを見つけられるかの点ではないだろうか?
以前からドライウェイトの設定には様々な工夫が行われてきた。その例を表4に示す。
| 表4 ドライウェイト設定のめやす |
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透析経過や透析終了時などの身体所見の観察は今でも重要な点である。つまり、透析経過中しだいに収縮期血圧・拡張期血圧および両者の差(脈圧)が減少し、脈拍数が上昇する経過は、除水により循環血液量の減少が起こっていることを示している。反対に、血圧が高く、脈圧が大きく、これが透析開始時から終了時まで継続する、幅の広いレールのような透析経過は、除水が不足していることを示唆する。
また透析後半や終了後などに、嗄声や筋けいれん、またシャント流量の低下が見られる場合、ドライウェイトが低すぎる(引きすぎている)ことを疑わねばならない。
こうした観察結果でなく、数値的な指標でドライウェイトを評価できないかという試みは、数々なされてきた。
古典的には胸部X線像における心胸郭比(CTR)がある。しかしこれは個々の患者の推移を知るには十分有用であるが、絶対的な指標にはならない。
体液性因子として、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどが注目されたことがあったが、結局有用とは評価されなかった。
現在ある程度信頼性があり、有用と考えられているものに、超音波エコー法における下大静脈径の測定4)やクリットライン等による持続的な循環血液量のモニターが挙げられ、これらは今後もっと繁用されてくる可能性を持っている。