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 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


腎臓病学へのイントロダクション
Post Graduate Nephrology No.1

Post Graduate Nephrology No.1 今回の内容
 『腎臓は分りにくい』と、かつて自分自身そう思っていた。だが実際は専門医となって みると、腎臓病学の世界は、むしろなかなか理屈のとおった、わかりやすい世界だと思うようになった。腎臓が分りにくいのではなく、分りやすい説明がなかった(少なくとも昔は)のである。  このレクチャーシリーズは、日常の診療に役に立つ腎臓病学(nephrology)の知識を、なるべく分りやすく提供することを目的としている。  第1回目の今回は、レクチャー全体のイントダクションとして、腎臓病にはどんなものがあるか、をひとわたりながめる。そして腎臓病は全体としてどのような特徴があるのかについて述べる。さらにこれらを理解するのに必要な予備知識として、最初に腎臓の構造の概略、つまりどのような『部品』から成り立っているのかを説明する。

  1. 腎臓あんないマップ

    1. 『じんぞう』ってどこにあるんですか?
       腎臓の位置は、だいたいは図1に示すように、腎臓の上から3分の1くらいのところが、一番下の肋骨(第12肋骨)のあたりにあることが多い。(1) おおざっぱにいえば、げんこつで背中を『あーどっこいしょ』という感じでトントンたたくとき、そのげんこつの奥(普通皮膚から 3〜4cm 奥)に腎臓が控えていることになる。

       図1 腎臓の位置

    2. 腎臓の大きさとかたちは?
       腎臓のサイズは、普通の体格の人では、長い方の差し渡しが 12cm くらい、短い方が 6cm くらいである。図2に示すように、腎臓は(正常では)げんこつより少し大きく、てのひらよりは少し小さい。  腎臓のかたちは、『おおきなソラマメ』などといわれることもあるが、あまり正確でない。むしろこの独特なかたちを、英語では『腎臓型(nephroid)』と呼ぶくらいである。

       図2 腎臓の大きさ

    3. 腎臓のなかはどうなっているか?〜その1
       図3は、腎臓を割ってみたところである。見て分るとおり、腎臓は『ひとくち食べかけたドーナツ』のような断面をしている。ドーナツの穴の部分は、腎臓に出入りする血管(腎動脈と腎静脈)および作った尿を集めて膀胱に送る配管(腎盂)が走っており、それらのすきまには脂肪が詰っている。この腎動・静脈や腎盂は、ドーナツの食べ欠いた部分を通って出入りしている。

       図3 腎臓の構造

       これらには『穴』などよりはましな名前がある。つまり、
      ドーナツの食べ欠いた部分 −− 腎門部
      ドーナツの穴の部分 −−−−− 腎洞部
      ドーナツの食べ残った部分 −− 腎実質、である。
       腎臓の機能は、このうち腎実質が担っているわけだが、腎実質は皮質と髄質に分けられる。髄質の先端は別名腎乳頭部ともいい、できた尿はここから腎杯へ流れ込み、さらに腎盂へと集められ、尿管を経て膀胱に向かうことになる。

       図4 皮質・髄質拡大図

       皮質と髄質を拡大してみると、図4のようになる。  ここで血管の走行に注目すると、まず腎動脈の枝が皮髄の間に入って行き(葉間動脈)、直角にカーブして向きを変えて走り(弓状動脈)、そこから腎表面の方向にたくさん枝を出す(小葉間動脈)。この小葉間動脈の枝に、実がなるようにして、糸球体(glomerulus)がある。(2) 糸球体は直径 0.1mm ほどの毛細血管の束で、顕微鏡で一見毛糸玉のように見えることからこの名がある(とおもう)。

    4. 腎臓のなかはどうなっているか?〜その2
       腎臓の構造をいちばん簡単に説明するならば、腎臓は次の 4つの部品から成り立っていると言うことができるだろう。つまり、
      @血管
      A糸球体
      B尿細管
      C間質
       の4つである。これらを順にながめてみよう。

       腎臓は血管がたいへん豊富な臓器で、心臓が毎分拍出する血液の実に4分の1が、左右合せても 300g に満たないこの臓器に流れ込んでいる。さて、大動脈から別れて腎臓にやってきた動脈は、しだいに枝わかれして、だんだん細くなって行き、最後は毛細血管つまり糸球体にいたることは今説明した。糸球体は片腎でおよそ 100万個ほどもある。血液が糸球体の毛細血管のなかを流れるうちに、一部は濾過されて、血管の外へ出て行く。糸球体にはあわせて毎分1リットル(3) の血液が流れこむが、この約1割に当たる、毎分 100ml 程度が糸球体で濾過され、糸球体瀘液(4) とよばれるようになる。糸球体瀘液はどこへ行くのか? 糸球体にはボウマン嚢(5) というカバーがついており、瀘液はとりあえずこのなかに出てくる。そしてボウマン嚢の端から、尿細管(tubule)へと流れ込む。尿細管は終点までの長さが 4〜7 センチの管で、1個の糸球体には必ず1本の尿細管がペアになって続いている。尿細管を流れるうちに、瀘液は普通その99%が吸収され、血管に戻る。そればかりか、ブドウ糖やアミノ酸など有用な物質は吸収し、老廃物や毒物・薬物などは排泄し、また血液中のミネラルのバランスによってナトリウム・カリウム・カルシウムなど色々な物質の吸収・排泄を調節する。言い換えれば、体液の内容の調節を、ほとんど一手に引き受けているのが、この尿細管である。(6)
       さて、尿細管で吸収を受けた残りが、もちろん尿である。最初に腎臓へ流れ込んできた血液の量から見れば、ざっと1000分の1の量の尿が作られることになる。
       糸球体から始まるひと続きの構造を、ネフロン(nephron)と呼ぶ。腎臓は、このネフロンが片方で 100万個集まってできたものと考えることができる。
       さて、間質が残っている。間質は、血管・糸球体+ボウマン嚢・尿細管などの構造の間にあって、これらを支える組織であり、少量の線維組織からなり、ふだんは目立つことがない、腎臓の脇役である。

  2. 腎臓病には、どんなものがあるか?

    1. ある分類
       ここではさっき説明した、腎臓の『部品』ごとに、腎疾患を分類してみよう。尿細管と間質は、しばしば同時にひとつの疾患に冒されるので、ひとつにまとめて扱おう。  ただし、病気は1種類の部品に限って起るものばかりではない。糸球体の病気、例えば慢性糸球体腎炎で糸球体が壊れた場合、それに続く尿細管は萎縮して行く。また動脈硬化のために、ひと群の糸球体が壊れることもある。尿細管・間質の疾患が糸球体に波及することもよくあることである。これは実は当然のことである。それぞれの『部品』たちは、すべてお互いのために働いているからである。  これと別に、病気がもっぱら腎臓だけを冒すのか(原発性疾患)、または全身の病気の一部として腎臓にも影響するのか(続発性疾患)の区別も大切である。

    2. 糸球体の疾患
       原発性糸球体疾患の代表は、各種の糸球体腎炎(glomerulonephritis)である。糸球体腎炎は、病状の展開の速度から、臨床上3つに分類される。
       急性糸球体腎炎(AGN)は、溶連菌(7) という細菌の感染症(咽頭炎など)に続いて起り、一部に慢性化があるというが、多くは半年程度で治癒する。最近は溶連菌感染症の減少につれて激減した。
       急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は、週単位で進行性に腎機能が悪化し、尿毒症(8) に至る予後の悪い疾患である。通常強い蛋白尿・血尿を伴う。また悪性高血圧や膠原病に伴う腎病変なども、これと似た経過を示すことがあり、臨床的にはひとまとめにRPGN症侯群(9) として扱う。
       慢性糸球体腎炎(CGN)は、たいへん幅広い概念である。病理組織学的にいくつものタイプ(10) に分類されるが、いずれも蛋白尿や血尿、時には高血圧を伴い、最もたちの悪いものでは、10年程度で腎不全に至るが、20年たっても腎機能に変化がないものも珍しくない。
       糸球体腎炎の仲間かどうかはっきりしない疾患に、巣状糸球体硬化症(FGSまたはFSGS)(11) がある。しばしば大量の蛋白尿を伴い、最悪の場合前記のRPGNの経過をとることがある。
       続発性糸球体疾患には、糖尿病性腎症・紫斑病性腎炎・膠原病に伴う腎病変・アミロイドーシスなどがある。
       糖尿病性腎症は、全身の微小血管障害(12) の一部として、糸球体に変化を起こすもので、進行すると大量の蛋白尿と管理困難な高血圧を呈して尿毒症に至る。透析になった場合の生存率も悪く(13) 、現在のところ、腎症が起る前に糖尿病を良好に管理して、予防するしか対策はないと考えられている。
       シェーンライン・ヘノッホ紫斑病という疾患にしばしば腎炎を合併し、紫斑病性腎炎と呼ばれる。多くはCGNの経過であるが、重症な場合ではRPGNの経過をとることがある。
       膠原病には色々な疾患が含まれる。糸球体障害を起こす代表はSLEで、SLEに合併する糸球体腎炎は、ループス腎炎と呼び、前述の原発性糸球体腎炎のすべての像を取り得る。このほかにも、混合結合織病(MCTD)や強皮症などで糸球体障害をおこす。
       アミロイドーシスは、アミロイドと呼ばれる蛋白が蓄積する疾患で、糸球体にこれが起れば、大量の蛋白尿と、進行性の腎機能低下をもたらす。
       ネフローゼ症侯群は、大量の蛋白尿のために、浮腫・高脂血症・易感染性・凝固能亢進といった全身的な影響が現れる病態である。蛋白尿が一定以上あれば、原因は何でもよいが、やはりネフローゼ症侯群の原因の多くは、原発性または続発性の糸球体疾患である。

    3. 血管の疾患
       腎の動脈に動脈硬化がおきれば、腎硬化症となる。通常は徐々に進行するが、急速に進行して細動脈の壊死を伴う、悪性高血圧(腎病変としては悪性腎硬化)もある。
       血管炎は、多発性動脈炎・過敏性血管炎などいくつかのタイプに分類されるが、急速に腎不全に致るような、重篤な腎病変を伴うこともある。
       腎動脈が詰まれば、腎梗塞になる。また腎動脈に狭窄がある場合、高血圧(腎血管性高血圧)を生じる。腎静脈が詰まれば、腎静脈血栓症で、強い血尿・蛋白尿・腎機能低下が突然あらわれる。

    4. 尿細管・間質の疾患
       間質性腎炎は、尿細管・間質が炎症の舞台となるもので、急性間質性腎炎は、急性腎盂腎炎と薬剤アレルギーが代表で、移植腎の拒絶反応もこのタイプである。慢性間質性腎炎は、慢性腎盂腎炎のほか、薬剤などの慢性中毒・膠原病・原因不明(特発性という)など原因はさまざまである。
       尿細管の先天的・後天的機能異常も重要な疾患であり、尿細管性アシドーシスが代表的であるが、この他に腎性糖尿・ファンコニ症侯群・腎性尿崩症などが含まれる。

    5. 腎不全
       腎不全(renal failure)とは、腎機能が3分の1ないし4分の1以下に低下することで、血清尿素窒素やクレアチニンの上昇を必らず伴う。腎不全と言っても、急性腎不全と慢性腎不全では、まったく状況が別である。
       急性腎不全(ARF)は、極度の脱水やショックによる虚血か、薬剤などによる中毒のために、腎機能が急速に低下する病態で、原因が取り除かれれば、通常は1ヵ月以内に腎機能は回復に向かう。この間生命を維持するために、しばしば透析を必要とし、合併症のため死亡することもある。
       慢性腎不全(CRF)はなんらかの腎疾患によって腎臓が荒廃しておこり、決して回復することはない。進行して尿毒症に致れば、一生維持透析が必要(14) であるが、社会復帰が可能である。現在我が国では十二万人以上の維持透析患者がおり(15) 、透析期間は最長25年以上にも達している。

  3. 腎疾患にはどんな特徴があるか?

    1. 自覚症状が少ない
       なかには肉眼的血尿や浮腫が経過中に現れることもあるが、多くは自覚症状を伴わず、しらない間に進行してしまうこともある。末期腎不全になって初めて腎疾患と診断されることさえ稀でない。手後れになる前に診断するためには、自覚症状に頼っていてはだめで、検査によらなければならない。

    2. 長期にわたって生活・食事などの制限が必要になる
       多くの腎疾患は慢性的な経過を取り、何年、または何十年もにわたって服薬や、食事制限、生活上の規制が必要となる。さらに透析に致った場合、生活設計の変更を迫られる。ただし、急速進行性腎炎(RPGN)や急性腎不全(ARF)などの場合は、迅速な対応が必要となる。

    3. 治療手段がない?
       確かにほんの 20〜30 年前までは、腎疾患といえばろくな治療手段がなく、ただただ自然経過にまかせていた。しかし医学も技術も進歩し、ステロイド療法や血漿交換などの手段も使える現在、腎疾患の大部分は、診断の時期を失しないならば、治療によって改善できるようになった。

    4. いったん悪くなったら治らない?
       慢性に進行する腎疾患では確かにそのとおりである。慢性糸球体腎炎(CGN)を例に取れば、治療で腎機能が正常化するのは、血清クレアチニンが 1.5mg/dl を超えた後ではまず困難で、2〜3mg/dl を超えてしまえば、もし最善の治療をしたとしても普通は次第に進行性に悪化して行く。ただし、RPGNやARFなど急速な経過で悪化したものは、治療により改善の期待もある。

    5. 命を奪われることはない
       腎疾患で生命に関わるのは、結局は腎不全である(16) 。腎不全に対しては、透析と移植のふたつの武器によって、社会復帰が十分できるようになっている。心・肺・肝といった重要臓器の末期不全のうち、患者の社会復帰ができるのは、現状では腎だけ(17) なのである。

  4. まとめ〜腎疾患診療の目的と使命

     内科で扱う腎疾患にはどんなものがあるか、また腎疾患にはどのような特徴があるか、について、述べてきた。医学の進歩に伴って、腎疾患の予後(特に生命予後)は改善したが、それでもなお長い闘病生活を余儀なくされ、人生設計の変更を迫られることも、残念ながら、ある。このとき患者は、ハンディを背負いながら社会復帰を目指すことになる。
     腎疾患診療の目的は、これまで述べてきたことから明らかである。まず、患者をできる限り腎不全から守ること。ネフローゼ症侯群を寛解に導入すること。そして不幸にも腎不全に陥ったならば、なるべく固有の腎機能を温存し、ただし社会生活をなるべく犠牲にしない方法を検討する。尿毒症、つまり末期腎不全にいたった場合は、透析療法での管理となるが、短期・長期の合併症を監視して、これに対処しなければならない。
     もっとまとめて言えば、将来ある腎疾患患者の、生活の質(quality of life:QOL)の向上に手を貸すのが、我々に求められている使命なのである。



脚注
 図1,図2の右側,図3,図4及び図5は、山之内製薬株式会社が企画発行した
【KIDNEY WATCHING 目で見る腎臓とその病気】
監修   黒川清(東京大学医学部第一内科教授)
学術協力 中尾彰秀(東京大学医学部第一内科)
発行日 1991年12月25日(c)
企画・発行 山之内製薬株式会社
より引用させていただきました。

 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

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