日本血液浄化技術研究会  ホームページ 

 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


腎不全 ほわっと?
Post Graduate Nephrology No.3

Post Graduate Nephrology No.3 今回の内容
 腎不全は、『腎機能』がある限度をこえて低下し、このために健康に有害な代謝などの異常がおきてくることをさす。また腎不全は、すべての腎疾患において、進行したあげくたどり着く、終末的な病像でもある。腎不全がさらに進行して末期にいたれば、尿毒症と呼ばれるいろいろな病像が起きてくる。
 今回は慢性腎不全を中心に、まず腎機能とは何か、次に腎不全とはどう言うものかの概念を解説し、続いて末期腎不全つまり尿毒症で出現する症状などを紹介する。最後に我が国における慢性透析の現況についても言及する。

  1. 腎不全とは何か?

     腎不全(renal failure)とは、ひとことで言えば、腎機能がある程度を超えて低下した結果、生体に有害な代謝および血行動態の異常(1) がもたらされる状態である。腎機能が一定以下になれば腎不全であるから、その原因はなんでもよく、実際さまざまなな腎疾患や全身疾患が、腎不全の原因となっている。また上記の『一定限度』というのは、正常の3分の1から4分の1を指すことが普通である。これは血清クレアチニン値でいえば、だいたい 2〜3mg/dl に相当する。
     ところでおよそ○○不全と言う限り、異常はひとつの臓器にとどまらず、全身に影響が及ぶものである。腎不全でも例外でなく、特に長期透析患者をみると、実にさまざまな病態が出現し、普段腎臓がどんな働きをしてくれているのかに驚かされる。
     腎不全は、急性腎不全(acute renal failure:ARF)と慢性腎不全(chronic renal failure:CRF)に分類できる。このふたつは、まったく別の病態として考える必要がある。
     急性腎不全は、なんらかの原因によって急速に腎機能を喪失したもので、早く原因が取り除かれれば、何日かまたは何週かの後に腎機能が回復することが期待できる。
     一方慢性腎不全は、多くの場合いろいろな腎疾患のために、何年もの経過(2) で腎臓が荒廃した結果生じるもので、決して回復することはない。

  2. 『腎機能』とは?

     腎不全とは腎機能が一定以下に低下することであると、先に述べた。それでは、『腎機能』とは何だろうか。
     腎臓の仕事は、尿を生成して、これによって体液の量や、電解質バランス・酸塩基平衡などの恒常性を維持することは、重要であるし、誰でも知っている。しかしそれ以外に、ホルモンの産生や排泄など、代謝・内分泌上の役割も大切である(表1)。
     腎不全では、原疾患によって差はあるが、これらの機能すべてが平行して低下する。これらのうち、窒素を含む代謝産物の排泄は、ほとんど腎だけが担当している機能であり、また糸球体濾過値(GFR)にほぼ相関しているため、これをもって腎機能を代表させることが多い。
     窒素を含む代謝産物の代表は、尿素窒素(UN)・クレアチニン(Cre)・尿酸(UA)の3つの物質である(3) 。したがって腎不全では必然的に、これらの物質の血中濃度の上昇、つまり高窒素血症(azotemia)が出現することになる。

    表1 正常腎の機能
    I.尿の生成に関連した機能
     1.体液量の調整(水とNaの排泄・尿濃縮)
     2.体液電解質組成の調整
     3.酸塩基平衡の調節
     4.代謝産物の排泄(特に窒素成分)
     5.薬剤・外来物質の排泄
    II.内分泌・代謝機能
     1.赤血球産生促進(エリスロポエチン分泌)
     2.血圧調節(レニン分泌・Na排泄)
     3.ビタミンD活性化
     4.インスリン・β2マイクログロブリン等分解

  3. 腎機能がだんだん低下すると

     ひとくちに腎機能と言っても、多彩な機能があること、そして最も代表的な腎機能は窒素成分の排泄であることを、前節で述べた。この窒素成分排泄とも相関する、腎機能の最も基本的な指標は、糸球体濾過値(GFR)で、この正常値はおよそ 100ml/分である。アメリカの生理学者Seldin は、GFRが量的に低下するにつれて、質的に異なるさまざまな病態が出現するすることに注目し、腎機能が低下する過程を4つの病期に分類して考えた。

    1. 腎予備力の低下 〜 Diminished renal reserve
       腎機能の約50%までの低下で、この程度ではいかなる代謝異常も明かにはならない。BUN、クレアチニンなどの検査成績も正常の上限付近にあり、もちろんなんら自覚症状を認めない。

    2. 腎機能不全 〜 Renal insufficiency
       残腎機能が50〜25%になると、軽度の高窒素血症や尿濃縮能の低下が現われる。夜間尿や軽度の貧血が認められる。この状態になると、腎傷害因子に抵抗力が弱く、比較的軽度の誘因、例えば脱水・感染・手術・薬剤などによって、次の腎不全のステージへ進んで行く。

    3. 腎不全 〜 Renal failure
       残腎機能が25〜30%以下になると、尿濃縮能は障害され(尿は等張尿に固定する)高窒素血症・貧血が高度となり、アシドーシス・高リン血症・低カルシウム血症が出現し、ときには高カリウム血症もみられる。しかしこの時期でさえ、明らかな自覚症状を伴わないこともしばしばである。

    4. 末期腎不全または尿毒症 〜 End-stage renal failure or Uremia
       残腎機能が5〜10%以下にまで減少すると、さまざまの代謝異常が出現し、神経・消化器・循環器などの自覚症状が現われる。透析療法に導入されない限り生命が危険になる。

  4. 尿毒症の病態

     腎不全が進行し、自覚症状を伴うようになったものが尿毒症(uremia)である。ここでは尿毒症で出現し得る代表的な症状を簡単に説明する。ただし、患者によって尿毒症症状には差があり、これから述べる病態が、すべて出現するのではない。また通常透析により迅速に症状は消失する。

    1. 心不全
       腎不全の末期にはたいへん高い頻度に心不全を合併する。これは水とNaの排泄低下が基礎的原因であるが、貧血や高血圧、そしておそらくアシドーシスの存在が心不全を助長する。自・他覚症状は一般の心不全と同じく浮腫・起座呼吸などである。しばしば肺水腫(4) が透析導入の直接の原因となる。また心不全は透析導入後の患者にとっても、死因統計上毎年第1位(全体の約30%)を占めている。

    2. 心膜炎
       従来末期腎不全では、ときに出血性心膜炎を合併した。心嚢水が大量になると心タンポナーデとなり、緊急の心嚢穿刺・排液を要した。最近では少なくなった(透析導入が早くなったため?)。

    3. 消化器症状
       尿毒症では吐き気などの消化器症状がほぼ必発であるが、これはアンモニアやアミンの蓄積が原因とされている。また独特な口臭もこのためである。このほか尿毒症状態では、びらん性胃炎や粘膜出血の合併頻度が高いと言われる。なお消化器作用薬のなかには、腎排泄性のもの(5) も多く、中毒に致らないために、用量に注意を要するものもある。

    4. 中枢神経症状
       保存期から集中力や計算力の低下は見られるが、尿毒症状態では、無気力・不眠・不安・イライラ・抑鬱などを伴うと言われる。経験上もっともしばしばみられるのは、眠気であり、早期には夜間の不眠を伴って昼夜逆転となることがあるが、進行すると終日傾眠となり、放置すれば最終的には尿毒症性昏睡に致る。身体所見として、『羽ばたき振戦』は尿毒症でも見られる。

    5. 末梢神経症状
       手足、特に指先に強いしびれ感を特徴とする。特に restless leg syndrome(イライラして絶えず足を動かす)および burning foot syndrome(焼けつくような感じ)が知られている。またこれらの症状は、透析導入当初は、一時的に悪化することがある。

    6. 貧血
       貧血は慢性腎不全には必発であり、残腎機能の低下とともに徐々に進行して、末期腎不全ではヘマトクリット 20%以下、ひどい時は 15%以下にもなる。著しい貧血は、少しの労作で息切れを招く。貧血の原因は、腎性エリスロポエチンの欠乏が最大の原因である。また透析だけでは貧血の改善が不十分なことがあり、しばしば透析時にエリスロポエチンの投与が行われる(6)

    7. 出血傾向
       しばしば歯肉出血・消化管出血・皮下出血斑・女性では性器出血などの出血傾向を伴う。尿毒症において、血小板の機能と、血管壁の代謝に異常が見つかっている。また尿毒症における出血時間の延長には、まれに凝固因子の第[因子(von Willebrand 因子)の異常が関与する場合がある。

    8. 高カリウム血症
       腎不全では種々の電解質異常(7) を伴うが、そのうち高カリウム血症は、尿毒症だけでなく、維持透析患者にもしばしば出現し、突然死にもつながりうる重要な合併症である。アシドーシスの存在は高カリを助長する。
       極端な高カリ(7〜8mEq/l以上)では、自覚的にも四肢の脱力や手や口唇の周りのしびれ感がみられる。  心電図上では、図1に示すような独特な波形の変化が現われ、極端な場合には心室性頻拍のような致死的不整脈や、心停止を招く。
       腎機能が極度に低下し、尿量も乏尿や無尿になれば高カリウム血症は必発であるが、次の場合さらにこれが助長される。
        1)カリウムの過剰摂取
        2)発熱・飢餓・手術侵襲などによる異化の亢進
        3)消化管出血
        4)組織の梗塞・壊死
        5)薬剤の影響(8) 
      
       そして、以下のような治療手段がある。
        1)透析        2)イオン交換樹脂製剤(カリメート・ケイキサレート)
        3)カルシウムの投与  4)グルコース・インスリン療法
        5)重曹の投与
      

    9. 尿毒症のまとめ
       もう一度繰り返すが、尿毒症とは、
      1.腎機能が足りなくなり、そのために自覚症状が現れてきた状態
      であり、そして、
      2.透析を行わなければ何週間かのうちに命が危険になる、のである。
       尿毒症はいろいろな症状の組合わせだが、やはり代表は『ねむけ』『吐き気』『息切れ』である。注意して観察すべき症状について下の表(表2)にもう一度まとめておく。

    表 2 注意すべき尿毒症症状
    別名症候の実際原因となる病態
    ねむけ傾眠計算力の低下、日中のねむけ+夜間不眠、極度なら昏睡
    吐き気消化器症状初期は歯磨き時の嘔気,最後は常に嘔気続く,独特な口臭アミン等毒物の蓄積
    息切れ呼吸困難階段を昇ったり急いで歩くと早く息があがる腎性貧血
    平に寝ると息苦しい、咳がでるうっ血性心不全
    姿勢にかかわらず安静時でも息がはやい代謝性アシドーシス
    しびれ知覚異常しびれ 知覚異常 口の周りなどがびりびりする,力が入らない,つまづく重度高カリウム血症
    出血出血傾向歯茎から血が出る,青あざができる,生理の量が多い血小板機能の異常

  5. 透析療法の概況

    1. いつ透析を始めるか
       保存療法に努めているにもかかわらず、尿毒症の症状が現れてきたときは透析に導入しなければならない。
       表3は厚生省の基準であるが、これが一応のめやすとなる。ただし、腎不全の原因疾患によって状況が異なることが多く、例えば慢性糸球体腎炎由来の場合は、表3に示す基準データよりかなり悪くなっても、保存療法で管理できることがあるが、逆に糖尿病などではデータが基準に満たなくても、透析がしばしば必要となる。
       要はデータでなく、患者の状態で透析導入の適応を考慮する必要がある。無理に透析導入を延期しても、入院期間や退院時の全身状態を考慮すると、むしろ不利なことが多い。

      表3 慢性透析療法の適応基準
      〜 厚生省透析療法基準検討委員会(1972) 〜
      1.保存療法で尿毒症症状の改善が得られず、日常作業が困難になったとき

      2.次の1),2),3)のうち2つ以上の条件のあるとき

       1)臨床症状(a〜eのうち3項目以上)

         a.乏尿あるいは夜間多尿
         b.不眠・頭痛
         c.腎性貧血
         d.高度の高血圧
         e.体液貯留(浮腫・肺うっ血など)

       2)腎機能:クレアチニンクリアランス 10ml/分以下
             血清クレアチニン 8mg/dl 以上

       3)活動力:日常作業が困難

    2. 透析患者の現況

       日本透析療法学会(9) の統計(10) によると、1992年12月末現在で、我が国の維持透析患者は 123,926名であり、91年末と比較して 7,623名の増加である。このうち 71.8%が日中の血液透析、23.2%が夜間血液透析を行い、CAPD は 6,011名で全体の 4.9%である。患者全体の 21.4%が10年以上の長期維持透析症例で、最長透析歴は26年である。
       一方92年1年間での新規導入は 22,475名で、同じ時期の透析患者の死亡は 11,621名である。新規導入患者の平均年齢は 59.52歳(維持透析者の平均年齢 55.98歳)で、日本人全体と比較しても、はるかに速く透析者は高齢化が進行し、社会問題となりつつある。また維持透析患者の死因は例年と同じく心不全が第一位で、約3割(32.6%)で、以下脳血管障害、感染症、悪性腫瘍の順である。
       透析導入の原疾患は依然慢性糸球体腎炎が1位だが、その割合は年々低下し、92年では 42.2%となった。2位は糖尿病で、毎年増加しており、92年は 28.4%に及んだ。糖尿病 透析患者の生存率は低く、3年で 58.0%(慢性糸球体腎炎は78.1%)、5年では 41.7%(69.7%)である。

       図2 維持透析患者の推移

  6. まとめ

     腎不全とはどういうものかについて、おおざっぱに説明してきた。
     透析療法の無い時代、つまり約30年程度前までは、尿毒症に至った場合間違いなく数週以内に死亡した。現在は透析療法の普及により、尿毒症による死亡は事実上ほとんどなくなり、先に述べたように我が国での維持透析患者は12万人を超え、透析歴も26年に達する人が出ている。
     しかし患者は腎不全のまま生存(11) するわけで、長期透析に伴う合併症を完全に防ぐことは、現在不可能である。また透析合併症とは言えないが、脳血管障害や虚血性心疾患も、非透析者と比較すれば罹患率が高い。  腎不全患者の生存は一応約束された現在、腎不全の診療には、完全な社会復帰・生活の質の向上が問われているのである。



脚注
 この原稿は、1993年に書かれています。
 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

【前に戻る】