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 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


腎不全の保存療法
Post Graduate Nephrology No.4

Post Graduate Nephrology No.4 今回の内容
 内科的な治療手段は、本来3つしかない。つまり、『あんせい』『めし』『くすり』である。保存期腎不全とは、尿毒症に致る前の段階の慢性腎不全のことであるが、この時期の治療手段も、やはりこの3つである。
 腎不全に到達した腎疾患には、改善や進行阻止の決定的な治療手段はない。ただし現状の腎機能をなるべく長もちさせるために、いくつか注意を要する点はある。特に近年腎機能の悪化を阻止、または大幅に遅らせ得るかもしれない手段として、厳密な蛋白制限による食事療法が注目されている。
 今回はこの低蛋白食療法をはじめとして、保存期慢性腎不全の管理手段を解説する。何を食べ、どう行動したら良いのか、という患者の問いに答える参考になれば幸いである。

  1. 保存期腎不全の治療目的

    1. 『保存期』腎不全とは?
       腎不全とは、腎機能が正常の3分の1から4分の1程度以下に低下し、自覚症状はなくとも健康に有害な代謝や血行動態の異常が起きてくる状態であった。そしてこれがさらに進行して、腎機能の残りが1割以下になれば、明らかな自覚症状が出現して『尿毒症』と呼ばれ、透析をしないと生命が危険になることも、すでに前回までに説明した。
       腎不全の保存期とは、腎不全のうち透析が必要でない段階、つまり尿毒症症状が出現する以前の段階のことを言い、尿毒症になるのを遅らせることが、この時期の治療の目標となる。具体的に治療は、運動制限(生活制限)、食事療法、薬物療法などの手段で行なわれる。

    2. 保存期腎不全の管理内容
       この時期の治療の目標は、次の2点に要約できる。

      1. 腎機能を悪化させる可能性があるいろいろの要因(後述)をなるべく避け、残った腎機能をなるべく長保ちさせる。
      2. 腎不全にともなう代謝や血行動態の異常を、なるべく是正する。

       そして、これを実現するための具体的手段としては、表1に示す各項目が挙げられる。このなかで、特に自己管理教育については他の項目と違う水準の項目である。しかし慢性腎不全は、他の内科的慢性疾患と同じく、疾患をよく理解した上での自己管理が、予後を決めることが多く、非常に重要となる。

    表1 腎不全保存療法の手段

    1. 腎不全増悪因子の回避/除去
    2. 生活指導(運動処方)
    3. 食事療法
    4. 薬物療法
    5. 自己管理教育

  2. 腎不全の増悪因子

    1. 何が腎臓によくないか
       慢性腎不全においては、その原因となった疾患を治療できれば最もよさそうに思うが、実際には困難であるし、仮に原疾患の治療ができても、急性腎不全ならともかく慢性腎不全の腎機能は改善しないのが普通である。そこで重要なのが、残った腎機能を大切に使うこと、つまり腎機能を悪化させる危険のあることをよく知って、これを避けることである。
       すでにある程度腎機能が低下しているひとに、さらに腎機能を悪化させる要因を、表2にまとめた。このうち頻度的に最も重要なのは、脱水(下痢嘔吐だけでなく、過度の食塩制限や利尿薬でも起こり得る)と薬剤(およびその他の医療行為)である。

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      表2 慢性腎不全の増悪因子

      1. 高血圧,および急激な降圧
      2. 感染症(呼吸器・尿路・腸管など)
      3. 脱水
      4. 心不全
      5. 薬剤
      6. 低栄養
      7. 原疾患の再燃(SLEなど)
      8. 手術侵襲
      9. 外傷
      10. 横紋筋融解
      11. 電解質異常(高Ca,低K,など)
      12. 高尿酸血症
      13. 悪性腫瘍の合併
      14. 尿路閉塞/狭窄

    2. 腎毒性のある薬剤
       投与によって腎機能を悪化させ得る薬剤はいろいろあり、直接の腎毒性を発揮するもののほか、アレルギー的メカニズムで腎障害をもたらすものを考えに入れると、実は絶対安全な薬剤は無いといってもよい。そのなかで腎障害の頻度の高いものを表3にまとめた。

    表3 腎毒性を持つ主な薬剤
    1.非ステロイド系抗炎症薬酸性のもの
    例)ボルタレン・インダシン・ポンタール・ロキソニン・ナイキサン・など
     塩基性のものは通常量では腎毒性は少ない。
    例)セデス・ソランタール など
     酸性でもクリノリルは腎障害が比較的軽度との意見あり。
    2.ヨード系造影剤
    最近の非イオン系の薬剤は比較的毒性が少ない。
    例)イオパミロン・オムニパーク
    3.抗生物質(抗菌剤)
    腎障害の頻度の高いものは
    1)アミノグリコシド系
     ゲンタシン・アミカシン・イセパシン・ベクタシン など
    2)バンコマイシン
     ただし、内服は腎毒性なし
    3)ファンギゾン
    4)大量のバクタ
    4.抗腫瘍薬
    シスプラチン・マイトマイシンC・メトトレキセート などが代表的
    5.免疫抑制剤
    シクロスポリン
    6.その他
    1)高脂血症治療薬
    (横紋筋融解の報告あり)
    例)ベザトールR・メバロチン・リポバス 特に併用で
    2)アンギオテンシン変換酵素阻害薬
    有力な降圧剤
    例)カプトリル・レニベース・ゼストリル・ロンゲス・インヒベース・など

  3. どのくらい体を動かしてよいのか

     保存期腎不全患者は、どのくらい運動しても大丈夫なのだろうか? 別の言い方をすれば、どのくらい体を使うと、腎臓に悪影響があるだろうか? この点についてはこれまではっきりした研究成果がないにもかかわらず、多くの臨床家は過労が腎不全の悪化を速めると考えている。
     腎血流量は、臥位から立位になるだけで明らかに低下し、運動によってさらに低下する。したがって生理学的に腎臓にもっとも有利なのは、安静臥床ということになる。
     しかしヒトは腎臓だけで生きているわけではない。寝たきりを続ければ、筋力や心肺機能などが低下するし、だいいち仕事もできず、当然収入減や失職などで社会的地位も失うことになりかねない。
     腎機能障害者の生活指導(より正確には運動処方)は、多くの専門医により基準作りが試みられてきた。その一例を表4に示す。

     実際の運動処方においては、筆者は次の2点を強調することにしている。

    1. 翌日まで疲労を持ち越す活動(1) は、避ける(次回からセーブする)。
    2. 炎天化での活動は避ける。

    表4 腎機能に従った安静度基準例
    腎機能区分安   静   度
    腎予備力低下期
    GFR:50%以上
    規則正しい生活 定期的な休息が望ましい(特に長時間の体動や立位保持後)
    マラソンなど過激なもの以外は学校体育可 ネフローゼ・高血圧は超勤夜勤の制限
    腎機能不全期
    GFR:30〜50%
    翌日まで疲労を持ち越す活動は避ける 定期的な安静休息(特に体動や立位保持後)
    超勤・夜勤・長時間の通勤は望ましくない
    腎不全期
    GFR:10〜30%
    症状が無ければ就労・通学可 座業が望ましい 超勤夜勤は不可〜むしろ短縮勤務
    定期的に十分な安静休息 経過が良ければレクリエーショナルな運動は可
    尿毒症期
    GFR:10%以下
    休業/入院 無理のない範囲での活動(不必要に安静を強いることは有害無益)

  4. 腎不全食事療法の一般論

    1. 基本と誤解
       腎不全の進行抑制や病態の緩和には、表5に示すような食事制限が有利(時には必要)であることはよく知られている。しかし、制限のみが食事療法ではないことは、言うまでもない。

      表5 保存期腎不全における食事制限の内容

      1. 塩分(Na)〜病態に応じた適切量に
      2. カリウム〜高K血症があれば40mEq/日目標
      3. リン〜できれば 600mg/日以下に
      4. 蛋白質〜最近再び注目 40g/日以下を推奨
      5. 水分〜高度浮腫や心不全のある場合

       一方、食事療法ほど一般から誤解されているものはない。外来などで耳にして愕然とする誤解はいろいろあるが、その例としては、

      1.  特定の○○という食べ物を食べていれば良い
      2.  特定の××という食べ物を食べなければ良い
      3.  スイカは腎臓に良い(2)

      などがある。もちろんすべて間違いである。
       食事療法の原則と考えられる要件を表6にまとめたが、これからわかるように、食事療法は服薬や生活規制などと比較して格段に継続がむつかしく、患者の大部分は、きちんと実施できないのが現実であろう。

      表6 食事療法の大原則

      1. 一日(または一年)のうちに口に入るもの全てが治療の対象で、
        全体の総和が適切な範囲にあること《総量規制》
      2. 万人向きの食事処方はあり得ない。病態や病期によって条件がかわる。
        《オーダーメイド》
      3. 全量摂取
      4. 調理の際の『味見』は禁物

       大部分の患者が破綻なく食事療法を継続できるためには、特別な配慮が必要である。例えば、

      1.  患者の強い自覚(動機づけ)
      2.  医療スタッフによる教育・支援体制
      3.  患者同志の横のつながり(情報交換の機会)(3)

    2. ナトリウム制限
       腎疾患にはしばしば高血圧を合併し、ネフローゼ症侯群や進行した腎不全では浮腫や(ひどくなると)心不全を合併することがある。高血圧・浮腫・心不全には、ナトリウムの制限が有利または必要である。
       一方で腎機能がある程度低下している場合、尿中にナトリウムを一定量排泄する(4) ため、過度なナトリウム制限は、ナトリウムの欠乏、つまり脱水を招き、腎機能の悪化につながる危険もある。
       適切なナトリウム制限には、尿中ナトリウム排泄量の評価、体重および血清尿素窒素やクレアチニンの検査値の推移に注意する必要があるが、多くは付加塩分一日 7g 程度が無難と考える。

       ナトリウム制限をする工夫は、おそらくふたつあるだろう。つまり、

      1. 食品のナトリウム含有量について知識を持つ
        特に加工食品。食パン一斤に 5g 程度の食塩を含む。寿司・丼ものは付加塩分は一食 5g が標準。
      2. 調理や食べかたの工夫
        酢や香辛料の活用。減塩醤油(5) の活用。醤油は『かける』より『つける』ほうが節約できる。

    3. カリウム制限
       すべての腎不全患者で必要になるとは限らないが、高カリウム血症を合併する患者では、食事のカリウム制限が必要となる。(6) カリウムは細胞の中に多く、動物や植物を食べる限り必ず口に入る。このため一定以下にすることは難しく、一日 40mEq(約 1600mg)(7) を目安とする。

       カリ制限の手段もふたつにわけて考えられる。

      1. カリウム含量の多い食品を避ける
        生野菜・果物(特にバナナ・メロン)、乳製品、いも類、豆類(あんこ・チョコレート・コーヒー〜特にインスタントコーヒー)
      2. 調理や食べかたの工夫
        野菜は水にさらすかゆでこぼす。果物は缶詰を使いシロップは飲まない。

    4. リン制限
       腎不全では排泄低下のため早期からリンの体内蓄積が増えると言われ、長い間には骨の代謝を障害して腎性骨異栄養症という病態の原因となる。また腎機能そのものに対しても、リンは有害かもしれない。
       リンを多く含むのは、加工食品(ハム・ソーセージ・かまぼこ・ちくわ・麺類・ジュース・コーラ・コーヒー・煮豆など多数)や、小魚、乳製品、卵黄などである。
       リンに対しても、ゆでこぼしが有効なことがある。また次章で述べる蛋白制限は、自然にリンの制限(そしてカリウムの制限にも)につながる方法である。

  5. 低蛋白食療法

    1. 低蛋白食は腎不全の進行を抑制する
       腎機能が悪くても、蛋白摂取量が少ないと、尿素窒素やクレアチニンの血清濃度が上昇しにくいことは以前から経験的に知られていた。図1は一日 20g 程度しか蛋白を摂取しないタイの修業僧の例であるが、ほとんど腎不全が進行していないように見える。

       最初に低蛋白食を保存期腎不全に応用したのはイタリアのグループで、一日 30g の蛋白制限で、腎不全の進行が抑制されることを示した。しかしその後長い間、低蛋白食の有効性や安全性について異論があったが、最近では彼らを支持する研究結果が続き(図2)、腎不全に対する低蛋白食療法は、安全で有効な治療手段として確立し、世界中で行われ始めている。(8)

       蛋白質を多く摂取するとなぜ腎機能が悪化しやすいのだろうか? 多くの研究がいろいろなことを明らかにしているが、くだいて言えば、蛋白代謝産物の排泄は、糸球体に負担をかけ、傷めやすいようである。

    2. 低蛋白食の実際
       蛋白質は体の構成成分であり、毎日数グラムから十数グラムの蛋白質がこわれて失われるため、ある程度の蛋白摂取は生存のために必要である。
       健康上害のない蛋白制限は、体重 1s あたり 0.6g/日までといわれている。これはだいたい一日 30〜40g 程度(9) にあたる。
       一方近年我が国の成人男性の蛋白摂取量は、一日 80g に達しており、蛋白質 30g くらいは、『刺身5切れ』でおしまいになるので、実際に継続するのはやさしくない。
       これを助けるため、いろいろな特殊食品が開発され、入手可能となっている。詳細は省略するが、当院でも粉あめやマクトンゼリーを使用している。

    3. 注意すべき点
       蛋白制限を厳密にすると、献立が制限されるためか、時にカロリー摂取が少なめになるようである。蛋白制限のうえにカロリーが不足すると栄養障害をきたし、体重の減少・筋力低下・貧血や血清尿素窒素などの悪化(10) を招く。このとき手足の『冷え』や空腹感を自覚すると言う。せっかくの食事療法も、これではまさに逆効果で、腎不全の進行を速める心配がでてくる。
       蛋白制限では、十分なカロリー摂取が特に重要である。事務系などの普通の労働で、毎日体重1s あたり 35〜45kcal 程度のカロリー摂取が必要である。普通の体格では 2000kcal/日が目安となる。

  6. まとめ

     腎不全の治療(というより、管理手段)のうち、生活上の注意、運動処方、食事療法について、概略を解説してきた。このうち低蛋白食療法は、確かに有効な場合があり、ぜひ普及させたい治療である。  薬物療法については今回は解説しなかったが、回をあらためて別に行いたい。またこのほかにもいろいろなノウハウ〜例えばかぜをひかない方法〜が存在するが、割愛する。



脚注
 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

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