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 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


What's 血液透析
Post Graduate Nephrology No.5

Post Graduate Nephrology No.5 今回の内容
 透析とは、いったい何をやることなのだろうか? 別な見方をすれば、どんな器材・装置が備われば、透析療法が行えるのだろうか。今回はこれをテーマとして、ダイアライザー・血液回路・透析液(水処理を含む)・抗凝固・患者モニターについて簡単に説明する。 これで透析に従事できる、と言うわけにはいかないが、知識の一助にはなるであろう。

  1. 透析は何をやっているのか

    1. 半透膜
       透析について説明する前に、まず『半透膜』について知っておかなければならない。半透膜とは、水・電解質など、サイズの小さい(分子量の小さい)物質は通過させるが、もっと大きな物質(例えば蛋白質)は通さない、と言うように、物質を選択的に通過させる膜である。このあと出てくる透析膜は、すべてこの半透膜である。

    2. 拡散(diffusion)
       半透膜を境にして、濃度の異なる溶液を入れておく(図1)。すると溶液中の物質は、しだいに膜を通って混ざりあい、時間がたつと全体が均一な濃度になる。このように、濃度の差によって物質が移動する現象を、『拡散』と言う。拡散という現象を利用して溶液の濃度を調整することこそが、『透析』である。

       図1 拡散

    3. 対流(convection)
       やかんのお湯が対流するとき、やかんの中身がもし砂糖水だったら、溶けている砂糖は、対流するお湯といっしょに移動する。このように、水(溶媒)といっしょに物質が移動する現象が『対流』で、強制的に物質を移動させるには、例えば図2のように、圧をかけてやる。半透膜を通って水が移動するが、同時にその中に溶けていた物質も移動している。溶液のなかの物質の濃度には、移動前後で変化はない。
       これは、実は『濾過』にほかならない。透析膜では、透過される物質のサイズ、つまり分子量がはっきり限定されており特に区別して『限外濾過(ultrafiltration)』と呼ぶ。(1)

       図2 対流

  2. 回路とダイアライザー

    1. ダイアライザーの構造
       実際の血液透析療法で、今述べた、透析・濾過を行なう場が、ダイアライザー(dialyzer)である。現在使用されているダイアライザーは大部分が中空糸(hollow fiber)型で、図3のような構造になっている。つまりダイアライザー全体はほぼ円筒形で、内部には縦に多数の線維が走っており、各々の線維は中空、つまりストローみたいに内腔を持っている。ストローの壁が、つまり透析膜であり、ストローの中を血液が流れ、ストローとストローの間のすきまに透析液が通っている。
       中空糸(つまり透析膜ストロー)の太さは、だいたい5分の1ミリくらいであり、1個のダイアライザーは、こういう中空糸をだいたい 7000本から1万本くらい備えている。

    2. 血液回路とはこんなもの
       血液を人体からダイアライザーへと導き入れ、さらに浄化の済んだ血液を人体へ還えす働きをするのが、血液回路であり、概略は図4のようになる。この回路に血液を循環させるのは、『血液ポンプ』の働きで、これはローラーを回転させ、チューブをしごくようにして血液を送っている。このほか回路には、プライミング(2) や補液のための『生食ライン』、ヘパリンなど抗凝固剤(後述)を持続注入するための『ヘパリンライン』がついており、さらにダイアライザーや人体に誤って空気が注入されるのを防ぐために、A側とV側に『エアタラップ』がある。この他に採血や薬液注入(注射)のためのゴムキャップが何ヶ所かについている。当然ながら、回路全体は滅菌(現在ではオートクレーブ滅菌)されている。

       図4 血液透析回路図 

    3. ダイアライザーにもいろいろある
       現在いろいろなダイアライザーが使用されているが、それぞれどんなところが違うかと言うと、

      1. 膜面積〜透析膜の面積が広いほど透析効率が高い。透析導入時は、0.6〜0.8uの小さなものを使い、維持透析期には、患者の体格などに合せて、0.8〜2.0uのものを使う。
      2. 充填血液量〜当然膜面積の大きいものが中を満たす血液量は多くなる。充填血液量が多いほど、治療中に患者の血圧などに対する影響は増える。
      3. 膜の材質〜織物に使われる繊維で透析膜はできている。材質は大きく2種類に分類される。セルロース系の半合成膜(ベンベルグ)、そして合成高分子膜(合成繊維)である。一般的に後者の方が、生体への影響(3) が少ないとされている。
      4. ポアサイズ〜透析膜には電子顕微鏡レベルの微細な穴(これをポアと言う)が多数開いている。このポアを通って物質が拡散・対流するので、ポアの大きい方が、より大きな物質を除去することができるし、除水性も高くなる。
      5. その他〜膜厚・各種物質の除去効率(クリアランス)・滅菌法(現在はγ線かオートクレーブ)など

       透析の臨床では、このようないろいろな条件のダイアライザーを使い分けている。  最近では、より大きな分子量の物質を除去することをめざして、ポアサイズの大きなザイアライザーが流行している。これらは必然的に水も通りやすく、high-flux 膜とか、high performance membrane と呼ばれることがある。(4)

    4. 透析液

      1. 透析液の組成
         現在当院で使用している透析液(AKソリタ-DL 「シミズ」)は表1に示す内容である。実際に患者のダイアライザーに潅流する時は、表に示す組成が標準となる。
         前の章の説明からわかるように、透析液は、半透膜を介して患者の血液と接触し、血液中の物質の濃度を調整するのが役目である。従って表1の『1.潅流時』を見てみると、透析液組成は、正常の血清電解質組成と似ているが、腎不全で起こりがちな電解質異常(高カリウム・低カルシウム・代謝性アシドーシス)を補正しやすいように、カリウムは低め、カルシウムとアルカリ化剤(HCO3-とAcetate)は高めに、それぞれ設定されている。(7)
         ただし特殊な患者条件、例えば透析前から低カリウム血症があるとか、高カルシウム血症に対して透析を行うような場合には、透析液をその患者専用に調整することがある。これを『処方透析』と言う。標準の透析液に対して、何かの物質の濃度を上げるのは、適当な薬剤(例えばカリウムを上げるならKCl)を付加すればよい。しかし、標準の透析液の成分から、何かの濃度を下げたい場合には、粉末の化学物質を計量して、作り直さなければならない。(8)

        表1 透析液の組成(mEq/l)〜AKソリタ-DL[シミズ]
         Na  K   Ca  Mg  Cl HCO3-(5) Acetate(6)
        1.潅流時 1402.03.01.01112510
        2.A剤1152.03.01.0111010
        3.B剤250000250

      2. 透析液の供給
         本題を離れるが、透析液はどのくらいの量使うのか、ご存じだろうか? 患者一人あたり、毎分 500ml 使うのが標準で、満床で9床の当透析室では、準備も入れると一日1トンくらいになる。これでは運搬や貯蔵が大変なので、製薬会社からは濃縮された製剤を購入して、使用直前に 35倍に希釈して患者に潅流している。
         実は希釈のほかにもう一つ、透析液には問題がある。近年ではアルカリ化剤として重曹(NaHCO3)を使用するのが常識(9) だが、重曹はカルシウム塩と混合すると、炭酸カルシウムの沈殿を生じて、溶液中の濃度が下がってしまう。したがって透析液中の重曹は、潅流直前に混合しなければならない。このため透析液は購入時には、A剤(主成分)とB剤(重曹)のふたつに分れている。
         このAB両剤を混合し、さらに 35倍に希釈して患者のダイアライザーに供給するのが、透析機械室に設置してある『透析液供給装置』である。(10)

      3. 水処理
         透析液は購入した原液を、直前に希釈して供給することを、たった今説明した。ところで、何を用いて希釈するのだろうか。水道水をそのまま使ってかまわないのだろうか。答えは、Noで、水道水にはカルシウム・マグネシウム・アルミニウム・フッ素や、消毒のための塩素・クロラミンなど、また少量の有機物その他不純物が含まれ、透析液にそのまま使用するには具合が悪い。(11)
         そこで、透析原液の希釈に使う前に、水道水を処理して、これら不純物を取り除いておかなければならない。これが『水処理』であり、透析機械室のもうひとりの住民、水処理装置の任務である。
         現在この水処理の主体は、逆浸透(reverse osmosis:RO)である。これは、水に圧力をかけて膜を通過させる際に、膜表面の電気的反発力により各種イオンその他の不純物を除去する手法である。装置が高価で、塩素の除去はすこし苦手、また処理による水のロスが 20〜40%ある点が短所である。
         現在実際の水処理は、この逆浸透を中心に、ポリプロピレン製の2種類のフィルター、活性炭による吸着、イオン交換樹脂による軟水化を組み合わせて行っている。さらに処理の済んだ水(処理水)には貯蔵中に紫外線を照射し、除菌フィルターを設置して細菌の増殖を防いでいる。

      4. 抗凝固法

        1. 体外循環には抗凝固が必要
           当然ながら血液は血管外に出ると、凝固するように出来ている。だからよほどの出血傾向でもない限り、回路に血液を潅流して、何の手段も講じなければ、回路(ダイアライザーを含む)内で血液が凝固して、治療を継続できなくなる。  そんなわけで、透析などの体外循環治療を行う場合、今のところ抗凝固薬の投与は必須である。この目的で使用される薬剤は、現在3種類ある。従来からのヘパリン、低分子ヘパリンおよびフサンである。

        2. 全身ヘパリン化とヘパリン感受性
           上記の3剤のうち、最も歴史が長いのがヘパリンである。また値段はヘパリンが格段に安価である。ヘパリンは半減期が比較的長く、回路内に投与しても効果は全身に及ぶ。 さて、ヘパリン量が多すぎれば出血を誘発するし、かといって少なすぎれは回路内の凝固につながる。そこで適切なヘパリン量を決める目的で、当院透析室ではヘパリンを用いて体外循環を行う際、あらかじめ『ヘパリン感受性試験』を実施している。まず凝固検査の容器に患者血を採血する。これを用いて、ヘパリンを加えない場合と、3段階の濃度でヘパリンを加えて凝固検査(APTT(12) )を実施し、グラフにプロットする。APTTが 50〜 60秒になる範囲が体外循環時の至適ヘパリン量である。あとは、身長と体重から患者の循環血液量を推定し、実際のヘパリン投与量を計算する。

        3. 低分子ヘパリン
           従来のヘパリンは凝固因子のうちトロンビンを阻害し、凝固時間を延長させる。だから投与によりどうしてもいくらかは出血傾向を招く。ところが最近、ヘパリンをいろいろな手法で加工した『低分子ヘパリン』が実用化された。低分子ヘパリンの抗凝固作用は抗]a活性が主体で、凝固時間が伸びにくく、従来のヘパリンと比較すれば出血傾向を起こしにくい。また従来ヘパリンで問題となっていた、血小板凝集の亢進や脂質代謝への悪影響も、低分子ヘパリンでは少ないことが示されている。  現在低分子ヘパリンは、フラグミンの商品名で発売されている。

        4. フサン
           フサンは『蛋白分解酵素阻害薬』に分類される薬剤で、例えば消化酵素を阻害するため膵炎の治療にも使用される。凝固因子も広範に阻害するため、体外循環時の抗凝固法として利用可能である。フサンは血液中で速やかに分解されて作用を失うため、全身の出血傾向を招くことはなく、出血傾向や出血性病変の存在する患者、あるいは術後患者に使用するには最も安全である。
           欠点は非常に高価なことである。

        5. その他の機器類

          1. 患者モニターの任務
             透析ベッドごとに1台ずつ、スリムな冷蔵庫みたいに立っているのが『患者モニター』であり、次のような機能を担っている。
            1. 血液ポンプ〜回路内の送血と血液流量の調節
            2. 透析液流量調節と流量の表示
            3. 透析液の加温と透析液温の調節
            4. 除水速度および予定総除水量の設定と除水量の表示〜設定した除水が完了した時は除水を自動的に停止する。
            5. 透析液圧の表示と圧異常の監視(警報)
            6. 静脈圧の表示と異常の監視(警報・血液ポンプの停止)
            7. 回路内気泡混入の監視(バブルキャッチャー〜警報と血液ポンプの停止)
            8. 抗凝固剤注入用シリンジポンプ〜注入速度の設定
            9. 漏血(ダイアライザーの透析膜の破損による)の監視
             まだあるが、省略する。

          2. 透析室に必須の機器
            1. 体重計〜正確なもの:立位保持困難な患者のために、座位で測定できるものや、リフトスケールも必要
            2. 自動血圧計〜元気な患者は透析前に自己測定、血圧が急変する患者は透析中継続測定
            3. 輸液ポンプ・シリンジポンプ〜患者血液中または透析液中への持続注入
            4. 心電図モニター〜体外循環中は不整脈が起きやすい
            5. 検査機器〜血糖簡易測定機(低血糖の監視)、浸透圧(13) ・凝固などの検査機器

        6. まとめ

           今回は血液透析を実施するとき必要となるハードウェアとソフトウェア、つまりダイアライザー・血液回路・透析液(水処理を含む)・抗凝固・患者モニターについて簡単に説明した。『ほお、透析とはこんなものだったのか』と思っていただければ、本稿の目標は達成したと考える。 Special thanks:本稿作成にあたっての情報提供と内容の確認に対して、当院の臨床工学技士の皆さん、特に那須野修一臨床工学技士に謝意を表する。



          脚注
          • (1)実際の『透析治療』においては、水分やナトリウムの除去(つまり除水)は、この限外遽過によって行われる。一方高カリウム血症や代謝性アシドーシスの補正は、専ら透析によって達成する。ひとくちに『透析』と言っても、実際の治療は『透析』と『限外速過』を組合わせたものと言える。
          • (2)血液透析の場合は、生食で回路を洗浄し、へパリン生食を充填する、治療開始前の準備行為のこと。
          • (3)透析膜は生体にとっては異物である。透析は血液を異物に直接接触させる行為とも言える。透析膜との接触の結果、補体(血清中の蛋白質)の活性化や、白血球(特に単球)や血小板が細胞内の物質を放出するなどの反応が起きる。その結果として、ショックや呼吸困難などの急性症状が起きることがあるほか、最近ではアミロイドーシスのような長期合併症との関連も注目されている。
          • (4)このようなポアサイズの大きい透析膜は、貧血や皮膚掻痒などの改善を期待されていた。最近では透析アミロイドーシス(長期透析例に関節障害を引き起こす)の原因物質である、β2マイログロブリンの除去が第一目標となっている。
          • (5)重炭酸イオン(bicarbonate)。重炭酸ナトリウムはつまり重曹。
          • (6)酢酸のこと。酢酸は肝臓などで代謝されて、重炭酸が産生される。
          • (7)あれ、カルシウム3.0mEq/lは正常より低いのでは? と思った人、よく気がつきました。透析液のカルシウム3.0mEq/lは6.0mg/dlに相当し、確かに血清カルシワム値よりかなり低い。しかしカルシウムは血清中では、約半分が蛋白質と結合しており、これは透析膜を通過できない。透析で移動できるカルシウムは残りの半分であり、結局のところ透析液のカルシウム濃度3.0mEq/lは、血清中では12mg/dlに相当するのである。
          • (8)意外に思われるかもしれないが、透析液は普通6種類の塩を混合すればできる。具体的には、NaCl,KCl,CaCl2・2H2O,MgCl2・6H2O,CH3COONa(酢酸ナトリウム),NaHCO3(重曹)の6種類である。さらに表1では省略したが、透析中の低血糖防止のために、100mg/dlのブドウ糖も添加されている。
          • (9)かつては酢酸のみをアルカリ化剤としていた。患者によっては血中酢酸義度の過度の上昇によって、嘔気・血圧低下などの症状をきたし、酢酸不耐症(acetateintolerance)と呼ばれた。
          • (10)装置によっては、中央の透析液供給装置は必要とせず、個々の装置でAB両剤の混合と処理水(後述)での希釈を行うものがある。このようなものを個人用透析装置と呼ぷ。
          • (11)これらの不純物による合併症は、主なものは次のとおりである。
            • カルシウム・マグネシウム〜硬水症侯群(全身の灼熱感・脱力・噂気・血圧億下などの急性症状)
            • アルミニウム〜透析脳症(知能障害・言語障害・歩行障害など)、骨軟化症、小球性貧血
            • 塩素・クロラミン〜溶血性貧血
            • エンドトキシン〜発熱、ショック
            • 細菌・真菌〜発熱
            • 硝酸塩〜メトヘモグロビン血症
          • (12)我々が施行しているのは、血漿でなく全血を用いる手法(WBAPTT)である。本稿ではAPTTと言う時WBAPTTを指す。
          • (13)透析液の浸透圧は、臨床工学技士が毎日測定し、合格した後初めて濯流に使用する。

          本内容は、横浜労災病院で使用されることを前提に書かれていますことをご了承ください。
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