日本血液浄化技術研究会  ホームページ 

 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


血液透析の短期合併症
Post Graduate Nephrology No.6

Post Graduate Nephrology No.6 今回の内容
 血液透析は、少なからず生体に負担をかける治療法である。それでは血液透析を実施すると、患者の身に何が起こるのだろうか? 今回はこれについて解説する。
 今回『短期合併症』としてひとまとめに扱うものの中には、不均衡症侯群やアナフィラキシーのように、血液透析の性質自体と強く関連するものがある一方で、回路内への空気誤入のように、事故とみなすべきものも含まれる。

  1. 透析不均衡症侯群

    1. 何のことか?
       新規に血液透析に導入する場合などで、急に高い効率の透析を行なうと、患者に、頭痛・嘔吐・意識障害・痙攣などの症状を合併することがあることは、以前から知られていた。これが(狭義の)不均衡症侯群(disequilibrium syndrome)である。
       不均衡症侯群がなぜおきるか、完全には解明されていないが、とりあえず次のように考えられている。
      透析によって血漿中から物質が除去されるが、脳細胞の中ではこれが遅れ、その結果一時的に血漿と脳細胞のあいだに浸透圧の差が生じる。このため血漿から脳細胞内に向けて水が入って行き、脳細胞の腫張、つまり脳浮腫が起こり、頭蓋内圧が高くなる。こうしていろいろな中枢神経症状がおこる。(1)

    2. どんな症状がでるのか?
       もともと不均衡症侯群は中枢神経症状のことであった。しかしもっと広く、全身の症状を含めて考える意見もある。不均衡症侯群の症状と考えられているものを、表1にまとめた。

      表 1  透析不均衡症侯群の臨床症状
      中枢神経症状(広義の不均衡症状)全身症状(狭義の不均衡症侯群)
      頭痛 嘔気 嘔吐 不安感 意識障害
       昏睡 見当識障害 振戦 痙攣
       瞻妄 視力障害
      四肢の冷感・しびれ感 筋痙攣(ひきつれ)
      違和感 倦怠感 掻痒 血圧低下(ショック)

    3. 対策
       なぜおこるかを考えればわかるように、不均衡症侯群は、透析を新規に導入するときや、そうでなければデータの悪いときに起こりやすい。症状の予防は、透析による血清浸透圧の低下を、ゆっくりにすることである。つまり、短時間・低効率・頻回の透析、そして浸透圧形成物質(グリセオール(2) など)の注入による血清浸透圧の調整が行なわれる。

  2. ショック

    1. ショックとは何のことか
       ショック(shock)とは、血圧が低下し、その結果全身の臓器・組織の血流が減少して、酸素などの供給が不十分になること(末梢循環不全)である。ショックのまま時間が経過すれば、しだいに細胞の障害が進行し、毛細血管での循環環境が悪化して、最終的に死因ともなり得る(不可逆性ショック)。

    2. 症状
       典型的な症状としては、意識が混濁し、無力状になる。時には不穏になることもある。皮膚は冷たく、汗ばんでいる。呼吸数は増加するが、早期には『なまあくび(3) 』を伴う。胸部や腹部の不快感、尿意・便意・失禁などもみられる。

    3. 血液透析でショックが起きやすいわけ
      1. 除水による循環血液量の低下
         血液透析中のショックは、ほとんどが循環血液量の減少によるショック(hypovolemic shock)である。血液透析では当然血液中から除水を行なうが、血管内の血液量(循環血液量)はふつう体重の8%で、成人なら4〜5lである。除水が進むにつれて血管外の体液が血管内へ移動してくるが、それには少し時間が必要であり、血液透析中には一時的に循環血液量が減少する。生体はこれに対してカテコラミンを分泌するなどにより、心拍数を上げたり末梢血管を収縮させたりして対応するが、それが限度を超えると、ついにショックにおちいる。

      2. 透析による循環血液量の低下
         血液透析では、除水を行なわなくとも循環血液量が一時的に低下する。その理由は、血液透析によって尿素などが除去されると、血清の浸透圧がその分低下し、その結果として、
        1. 浸透圧差によって水分が血管内から細胞内へと移行する(広義の不均衡症侯群)
        2. 血管外の体液が血管内に移行するのが遅れる。
        の二つの現象が生じ、体外に除水した以上に循環血液量が減少しやすい。透析よりもECUM(4) のほうが実施中の血圧は安定しやすいのは、この理由のためである。

      3. 血圧はいつ下がるか
         ドライウェイトの設定が低すぎたり、体重増加量が多すぎたりする場合は、当然ながら透析経過の終盤にショックが起こりやすい(図1A)。また昼食時起座位になった時も、心臓への静脈還流が減るので、ショックの危険地帯である。さらにもともと心臓が悪い人の場合、開始して1時間以内にショックになる(図1B)ことがしばしばあり、これを乗り切ればその後は案外落ち着いていることも多い。

      4. ショックの対策
         ショックには迅速に対応しないと危険である。過大な除水をしないのがよいが、かといって大量に引き残しを繰り返せば、いずれは心不全へとつながっていく。
         ショックが起きた時は、まず頭を低くし、下肢を挙上する。これは心臓への静脈血の還流を助け、心拍出量を増やす。
         補液は、減少した循環血液量を一時的に回復させる。生食でなく、もっと浸透圧の高い輸液製剤を使えば、血管外の体液に血管内へと流入するのをうながし、補液量以上の効果がある。マニトールやグリセロールは、やがて血管外や透析液中にも拡散するが、輸血・アルブミン・デキストランなどはながく血管内に留っている。
         さらにECUMを行うと、血清浸透圧を下げずに除水ができ、血圧維持に有利である。
         しかし何より大切なのは、ショックを起こさぬこと、早く見つけて対応することであり、特に訴えの少ない患者、高齢者、糖尿病例、体重増加の多い患者には十分に注意して観察する必要がある。

    4. 筋痙攣

       血液透析の経過中に、ふくらはぎなどの筋肉が硬直して痛む、いわゆる『ひきつれ』は、原因がつきとめられていない。血清カルシウムやアシドーシスの関与もあるかもしれないが、今のところ最も有力な考えは、循環血液量の減少、とくにナトリウムの欠乏によって起きる、筋肉の循環不全である。
       予防・治療の対策は、経験的に、透析液のナトリウム濃度を上げる、10%食塩水の注射、温湿布、マッサージなどが行なわれてきたが、原因が上記の通りだとすれば、これらの対策は理論的にも正しいことになる。最高の予防策は、過大な除水を避けること、つまり透析と透析の間の体重管理である。

    5. アナフィラキシー

       アナフィラキシー(anaphylaxis)は、即時型のアレルギー反応(5) であり、急に起こる血圧低下・咳・呼吸困難・喘鳴・鼻閉・皮膚の紅潮などの症状を呈する。まれなことではあるが、血液透析でこのアナフィラキシーに似た反応が起きることがある。特に天然セルロース系のダイアライザーを用いた血液透析で、開始直後に起こりやすいことが観察されていた。(6) また、透析を中断した後再開した直後や、一時低下した血流量が回復できた直後にも同様なことがおきることもある。
       血液透析でアナフィラキシー様反応が起きる原因は、現在次のように考えられている。透析膜と接することによって、血清の蛋白である補体のうち、C3 および C5 が分解して、それぞれ C3a,C5a ができるが、これが血管や気管支などにはたらいて、前述のいろいろな症状を引き起こす。
       血液透析におけるアナフィラキシー様反応の予防策としては、次のようなものがある。ダイラライザーの再使用・合成高分子膜ダイアライザーの使用・セルロース系膜でも表面に処理を加えて補体活性化を起きにくくした膜の使用・蛋白分解酵素阻害薬であり補体活性化を抑制するフサンの使用、である。
       もし発症してしまったら、そのときは対症的に、酸素投与・カテコラミン・ステロイドなどの手段で、呼吸と循環の管理を行う。幸いなことに、C3 や C5 は迅速に代謝され、アナフィラキシー様反応は 15〜30 分程度しか続かない。

    6. 出血・失血

       血液透析をはじめとする各種の体外循環治療には、原則として抗凝固が必要になる。通常のヘパリンは肝臓で代謝されて血中から消失して行くが、それには数時間程度を要するため、血液透析が終了した後も、普段よりはどうしても打撲や外傷によって出血しやすく、また出血量が多くなりやすい。
       まず直接血液透析と関連して、穿刺部・針・針と回路との接続部・ダイアライザーの膜の破損などを原因として失血する危険があり、さらに抗凝固と関連して、外傷・術創・消化管潰瘍などから出血することが起こり得る。
       回路やダイアライザーから出血すると、血液が不潔な部分と接触することになるため、抗生剤の投与など感染対策の検討が必要なことがある。
       時には抜針後長時間圧迫しても止血しなかったり、いったん止血したように見えても再出血したりすることがある。このような場合は、抗凝固薬の効きすぎか、患者に出血傾向(この場合凝固障害(7) )があるかのどちらかである。止血させるには、硫酸プロタミン(ヘパリンの拮抗物質)の投与やトロンビン末を塗布して圧迫するなどの対策が必要である。
       なかなか止血しない場合にやってしまいそうで、実は絶対にやってはいけないことがひとつある。それは出血点のうえにガーゼをたくさんのせて、砂嚢などで圧迫することである。これは止血にはまったく役立たないばかりか、周辺に巨大な血腫を作る結果になり危険でもある。この場合になすべきことは、必ずガーゼ類をいったん取り去り、出血点をよく目で確認することである。

    7. 空気誤入

       空気が血液回路から体内に誤って入ってしまう事故は、体外循環治療における悪夢である。
       通常の血液透析においては、動脈側穿刺部位から血液ポンプまでの間は陰圧で、この間で連結がはずれるか、回路などが破損すれば、(血液が回路外に出るのではなくて)回路内に空気が入ってくる。具体的には、A側針の抜け・A側針の破損・A側針と血液回路との接続部のはずれまたはゆるみ・A側採血部・ヘパリンラインとヘパリンシリンジのはずれ(ゆるみ)・生食ラインのクランプ忘れ、などが回路内への空気誤入の場となり得る。(8)
       もし大量の空気が静脈内に入ったなら、何が起きるのだろうか。空気はたくさんの気泡の形で静脈内を血液と一緒に流れ、右心房に到着する。次いで右心室に入り、肺動脈へ向けて駆出される。肺は、いうまでもなく、血液と吸気のあいだで酸素や炭酸ガスなどを交換するところである。気泡は肺の毛細血管を通過できず、これを詰らせてしまう。これが空気塞栓である。空気はやがて血液に溶けて行くので、肺の毛細血管のごく少ない部分が、一時的に詰っただけならば、臨床的にはあまり問題はない。しかし大量の気泡のために空気塞栓が肺に広範に起きてしまうと、急激な呼吸不全とショックがもたらされる。
       さらに事件は続く。肺動脈系には、極端な肺高血圧が生じた時、肺をバイパスして左心房に血液を戻す経路がある。大量の空気塞栓で肺動脈圧が上がると、気泡は肺で止らず、このバイパスを通って左心系から全身へと飛び、脳をはじめとする全身の重要臓器に空気塞栓を生じさせる。
       以上からわかるように、空気誤入は時に致命的な結果となりうる合併症であり、さらにほとんどの場合医療過誤の結果とみなされる。確かに透析回路の静脈側には気泡検知器がつけてある。そうであっても空気誤入が絶対に起きないとは限らない。機械は故障しないとはいえないし、気泡の警報を手動で解除することだって可能である。
       大量の空気が誤入した時の対策を表2にまとめた。

      表 2  空気誤入時の緊急処置
      処 置そ の 目 的
      体外循環の停止それ以上の空気誤入を防ぐ。血圧の安定をはかる。
      左側臥位/低頭位気泡を右心房内に留める。/気泡が脳へ飛ぶのを減らす。
      呼吸管理低酸素血症が必発 〜 酸素投与・機械呼吸など
      循環管理ショックの対応 〜 カテコラミン投与など
      高気圧酸素療法血管内の気泡の溶解促進/脳梗塞の治療

    8. 溶血

       溶血(hemolysis)とは、赤血球の細胞膜がこわれて、中身のヘモグロビンが血液中に出てくる現象である。血液中でヘモグロビンはハプトグロビンという蛋白と結合するが、結合できなかったヘモグロビン(遊離ヘモグロビン)は、組織の虚血を招くなど有毒となる。大量の溶血が血管内で発生した時、ヘモグロビンはハプトグロビンの結合能を超えて血中に放出され、臓器障害をもたらす。
       通常大量の溶血を生じる代表的な状態は、ABO型不適合輸血である。血液透析では、透析液の濃度異常か回路内圧の異常を原因として、溶血が起きることがある。
       一般的には、大量溶血の代表的な合併症は急性腎不全である。透析患者でも、それまでわりあい保たれていた尿量が、溶血事故後に減少することがある。その次に見られるのは急性膵炎で、透析患者の場合はむしろこちらの方がより一般的かもしれない。
       透析中に溶血が起きてしまった時には、次の対策がある。

      1. 蛋白透過膜(9) による血液濾過または血漿交換 〜 遊離ヘモグロビンの体外への除去
      2. ハプトグロビン製剤の点滴 〜 遊離ヘモグロビンを結合して無害にする

       随伴する急性膵炎などの有無や程度によって、治療(入院を含む)を検討する。

    9. まとめとハインリヒの法則

       今回は『血液透析の短期合併症』と題して、血液透析中に患者の身に起こり得るいろいろなことがらについて解説した。これらのうちで、不均衡症侯群やアナフィラキシーは、透析そのものの性質と強く関連するが、空気誤入や溶血、出血などについてはほとんど『事故』と言うしかない場合が多い。事故防止のために、機械・設備面ではかぞえ切れない改良がなされ、運用面でもいろいろな工夫がされてきた。昔から見れば、透析療法もずいぶん安全性が向上したと言える。
       しかし、それにもかかわらず絶対に事故は起こる。なぜなら機械はきっといつかは故障し、人は必ず間違えをおかすからである。
       事故には必ず前兆があると言われる。1件の重大事故(医療現場においては人身事故)の背後には、回避はできたものの『あわや事故』という冷や汗ものの事例が平均29件存在し、さらにその背後には、何ごともなく終わったが、ひとつ処置を誤れば同じ事故になったはずの事例が、平均300件あるとされる。これは、ハインリヒ(10) の法則としてシステム管理などの上で有名である。
       事故防止には、機器・設備の整備・点検や、誤っても事故につながりにくい体制づくり(マニュアル作成)などが役にたつ。『みんなで注意しましょう』では事故はなくならない。  事故を未然に防ぐ個人の武器には、必要な分野に関する正確な知識・過去の事例に関する知識・よく考える習慣(特に起きた現象の理由について)・変だと感じたことを放置しない習慣・経験などがあると考える。ここで言う『経験』とは、単に過去に体験したことがあるという意味ではない。批判を経た体験、例えば『あれ、何かいつもと違うな』と気付くことができるちからのことである。
       以上、人並み以上に失敗をしてきた者の、反省と自戒をこめつつ。



      脚注
      • (1)極端な場合死亡することもあった。
      • (2)グリセオールの主成分はグリセリン(グリセロールとも言う)で、代謝されて血中から次第に消失する。このため透析が終わって病室に帰ってから、不均衡症状が現れることがある。これを防ぐには、代謝されない製剤、例えばマニトールを併用するとよい。
      • (3)脳の砥酸素に伴う現象で、より多くの酸素を取り入れるのが目的。
      • (4)ECUM(extracorporeal ultrafiltration method:体外限外濾過法〜イーカムと読む)とは、通常の血液透析の回路やダイアライザーを用いて、透析液を流さずに、単に濾過だけを行う治療手段である。血圧の影響を少なくして水やナトリウムの除去をはかる場合に有利である。
      • (5)即時型アレルギーには、気管支喘息・花粉症(アレルギー性鼻炎)・アトピー性皮膚炎のほか、薬 剤アレルギー(ペニシリン・ショックなど)がある。
      • (6)この状況は、first use syndrome(初回使用症侯群)として知られている.アメリカではダイアライザーは普通使い捨てにせず、何回か再使用するが、その初回使用に限ってまれにこのアナフィラキシー様反応をきたす。なお、日本ではダイアライザーは原則として使い捨てにしている。
      • (7)血小板減少症や血管壁が弱い場合には、時間はかかるが圧迫だけで必ず止血できる。しかし凝固因子の欠乏があると、圧迫は無効である。凝固因子の欠乏は、血友病・DIC・肝不全、または食べられない患者に抗生剤を長期使用した時(ビタミンKが欠乏する)などで起こる。
      • (8)このほかに静脈側エアトラップの液面が低すぎる場合にも、空気誤入の危険はある。
      • (9)遊離ヘモグロビンは分子量が約68,000で、アルプミンに匹敵し、通常のダイアライザーは通過しない。つまり溶血がおきても、透析液が着色することは通常ない。
      • (10)ハインリヒはアメリカの損害保険会社に雇われていた数学者で、保険掛金の率を算定するために、 各種の産業事故を調査した結果、本文中のハインリヒの法則を発見した。

       超初心者のための臨床腎臓病学  
      1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
      5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

      【前に戻る】