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 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


長期透析合併症〜T
Post Graduate Nephrology No.7

Post Graduate Nephrology No.7 今回の内容
 透析者の生存期間は着実に延び、現在では20年以上のひともまれではなくなった。しかし、透析期間がのびるにつれて、透析者のからだには健常者には見られない、いろいろな変化が起こるようになる。それらの変化は、ひとによってさまざまな時期に、全身のいろいろな器官にわたって起こり、長期透析合併症と総称される。
この長期透析合併症を、2回に分けて解説する。今回はその前半にあたる。

  1. 腎性貧血

    1. 腎不全における貧血の意義と原因
       腎不全になると、ごく一部の例外を除いて貧血を合併する。腎不全が原因の貧血を腎性貧血と呼ぶ。ひどい貧血は、少し歩くとすぐ息切れするためADLの低下を招くし、心不全の誘因になるなど、二次的な合併症を引き起こす可能性もある。腎性貧血は、保存期腎不全患者が透析に導入される直接の理由となるほか、維持透析患者にとっても切実な問題であった。

      表1 腎不全における貧血の原因
      1)赤血球の産生低下
      • エリスロポエチン欠乏
      • 尿毒症による骨髄抑制
      • その他
      2)赤血球寿命の短縮
      • 正常の半分から3分の2程度と報告(1)
      3)失血の機会の増加
      • 採血機会の増加
      • 血液透析時のダイアライザ内などの残血
      • 時に、出血傾向(消化管・性器出血)

       腎不全になると、なぜ貧血を合併するのだろうか?
      その理由は、だいたい右の表(表1)ように考えられている。いろいろな要因がからんで複雑であるが、たとえ表1の2)や3)の事情があっても、正常の骨髄では赤血球をふだんの数倍にまで増産して対応できるはずなので、結局腎性貧血の主因になるのは、赤血球の産生低下、なかでも腎性エリスロポエチンの欠乏である。

    2. 腎性貧血とエリスロポエチン
       エリスロポエチン(erythropoietin:以下EPO)は、腎臓から分泌される一種のホルモン(2) で、骨髄において赤芽球系にはたらき、赤血球の産生を促進している。
       EPOは極端に微量しか血液中などに存在せず、ヒトや動物から十分な量を採取できないため、以前は臨床応用は事実上不可能であった。しかし最近になって遺伝子組かえ技術により、哺乳動物の培養細胞を用いてヒトのEPO(rHuEPO)が大量に合成されるようになり、日本でも市販されるようになった。
       腎性貧血に対してはEPOはほとんど100%のすばらしい有効性がある。EPOの効き目が弱い場合の例には、鉄欠乏や低栄養があるが、それぞれ鉄剤やエネルギーなどの補充を行うことによって解決できることが多い。また血液疾患や悪性腫瘍、感染症を合併した場合、重症の二次性副甲状腺機能亢進症がある場合も、EPOの治療効果は落ちる。
       EPO投与によって貧血が改善した透析者は、階段での息切れなどが減少し、行動も積極的になって生活の質が向上することが報告されている。
       副作用としては、しばしば高血圧がみられ、また透析効率の低下や高カリウム血症の報告もあるが、降圧剤や透析条件の変更で対処可能であり、EPOは腎性貧血の安全・確実な治療薬として普及している。現在は透析患者に限って適応が認められているが、近々保存期腎不全患者にも使用できるようになるみこみである。

    3. 腎不全における鉄代謝
       前述のように頻回の採血・血液透析の際の残血など、腎不全では血液を喪失する機会が多い(年間2〜5リットルに及ぶとされる)。維持透析患者に鉄欠乏性貧血はしばしば見られるが、反面輸血を繰り返した場合などには鉄過剰の状態もよく見られる。一方腎不全患者の貯蔵鉄の状態を知るためには、通常の場合と異なり、血清鉄やUIBCはあまり参考にならず、血清フェリチンの測定が有用である。鉄欠乏には鉄剤の補充が適応(3) であるが、鉄欠乏でない場合、特にあらかじめ鉄過剰の状態にあるものにさらに鉄を投与して、新たな障害(ヘモクロマトーシス)を招くようなことはもちろん避けねばならない。

    4. 腎不全における貧血の一般方針
       腎不全患者に貧血を認めた時の方針は、表2に示すようになる。
       まず大切なのは、いつも腎性貧血単独とは限らない点であり、特に貧血が進行する場合は、どこかに出血源があることも疑ってみる必要がある。
       以下、ほぼ表2に挙げた順に検討することになるが、EPOが使用できる現在、急性出血や特に重篤な貧血を例外として、輸血は避けるのが賢明である。言うまでもなく輸血は、感染症の危険がゼロではないし、鉄を投与することにもなり、鉄過剰の心配も必要となることがある。

      表2 腎不全における貧血の管理方針
      1. 出血源の検索・治療
      2. 腎不全状態の改善〜特に十分な透析
      3. 適切な食事〜特に蛋白とエネルギー摂取
      4. エリスロポエチン投与
      5. 鉄剤投与(鉄欠乏時のみ)
      6. 輸血
      7. 必須アミノ酸療法
      8. 蛋白同化ステロイド

  2. 循環器合併症

    1. 心不全
       透析導入前後だけでなく、維持透析期の患者にとっても、心不全は毎年死因統計の第一位(約3割)を占める重大な合併症である。透析患者の多くは、腎からの水・ナトリウムの排泄が低下しており、食べ過ぎ・飲み過ぎによって体液量が過剰になりやすい。一方透析患者の体重は、ドライウェイトというかたちで人為的に設定されているため、長期のカロリー不足で正味の体重が減った(つまりやせた)のを看過ごすと、知らないうちに体液量の過剰をきたしていることがある。また高血圧や貧血が存在すると、心臓の負担を増加させて心不全を促進する。心不全が進行すると肺水腫(『尿毒症性肺』と呼ぶ人もいる)となり、呼吸不全をきたす一方で感染の危険がおおきくなる。
       透析患者に合併する心不全は、体液量過剰だけが原因とは限らない。近年高齢者や糖尿病患者を中心に、心機能低下による心不全(4) が問題になりつつある。
       腎不全においても、心不全の症状は共通で、自覚的には呼吸困難(特に起座呼吸)、咳など、他覚的には、頚静脈の拡張、肝腫大、浮腫、体重の増加などがあり、また胸部X線像で心拡大や肺野のうっ血を認める。肺水腫になれば低酸素血症を伴ってくる。
       透析患者の心不全は、すぐ対処しないといけない。まず起座位として(必要なら)酸素を投与する。水・食塩制限は当然のことだが、過剰な体液の除去が必要で、このためには透析(血液透析または腹膜透析)、しゃ血などの手段によるしかない。ラシックスは利尿が得られなくとも有効なことがある。フランドル・ミリスロールのような血管拡張剤、ドパミン・ドブタミンのようなカテコラミン投与も有効なことがある。また肺水腫の緊急時にとりわけ効果があるのは塩酸モルヒネである。

    2. 透析患者の血圧
       透析導入期の患者には、高血圧の頻度が高い。(5) 維持透析に至っても、ドライウェイト設定だけで血圧の管理ができず、降圧剤を必要とすることは多い。
       しかし透析歴が10年以上にわたると、次第に高血圧の頻度が低下し、かわって低血圧の頻度が増えてくる。このような患者では、昇圧物質に対する末梢動脈の反応が低下しており、心拍出量は保たれるが末梢抵抗が低いために低血圧をきたし、著しい場合はやはりADLを損っている。
       またEPOによる高血圧(6) は、まれに高血圧性脳症や脳血管障害の原因となり得ると言われる。

    3. 透析患者の不整脈
       血液透析は、経過中に不整脈、特に期外収縮をはじめとする各種の頻脈性不整脈を起こしやすい。その理由は、次のように考えられる。

      1. 体外循環・除水・返血に伴う、血行動態(特に循環血液量)の変動
      2. 透析による血清電解質の変動(カリウム・マグネシウム低下;カルシウム上昇)
      3. ヘパリンによる血清脂肪酸濃度の上昇

       透析患者の頻脈性不整脈は、透析経過の後半から、同日の夜半くらいまでに特に出現しやすい。
       また、極端な高カリウム血症(7〜8mEq/l以上)の場合、心室性頻拍だけでなく、房室ブロックや sick sinus syndrome のような徐脈性不整脈もしばしば起こし得る。
       治療に当たっては、抗不整脈薬の多くは腎排泄性であるため、投与量に注意を要する。

  3. 中枢神経合併症

    1. 尿毒症性脳症・透析不均衡症侯群
       以前述べたように、尿毒症期には傾眠などの意識障害をきわめて高頻度に認める。どの程度の高窒素血症でどのくらいの症状が出現するかは、個人差が著しい。この中枢神経症状は、通常透析により数日以内の経過で迅速に消失する。
       また血液透析の導入期に、透析の後半から終了後にかけて、頭痛・吐気などを伴う、いわゆる透析不均衡症侯群が起こることがある。詳細はすでに前回解説したが、これは導入して最初の2〜3回の透析にほとんど限って起ると考えてよい。

    2. 透析脳症
       1970年ころアメリカで、長期透析例のなかに、進行性の言語障害(どもる、またはとぎれる口調)・痙攣・ミオクローヌス・痴呆などの症状を示し、数か月で死亡した患者が発見され、透析脳症または透析痴呆と呼ばれた。その後このような患者の脳にアルミニウムの蓄積が多く、また好発する地域では透析液中のアルミニウム濃度が高かったことがわかり、この病態の原因は、アルミニウムによる脳の障害と考えられている。(7) デスフェラールという薬剤が症状改善に有効である。

    3. 脳血管障害
       脳血管障害は例年透析患者の死因統計で心不全に次いで2位(全死因の15〜20%)を占め、全人口と比較すると数十%増しの高い罹患率である。尿毒症期に中枢神経症状を認めても、根拠なく腎不全のためと考えず、脳血管障害(硬膜下血腫などを含む)も疑う必要がある。

  4. 末梢神経合併症

    1. 尿毒症性ニューロパシー
       以前にも述べたが、末期腎不全には末梢神経障害をしばしば合併し、これは手袋・靴下型の末梢神経症(ニューロパシー)で、下肢優位・感覚優位の障害をおこす。多くは適正な透析により改善するが、透析だけでは治療に難渋する場合もあるとされている。

    2. 手根管症侯群
       手根管は手首の部分の掌側にある、三方を骨に囲まれたトンネルで、指を曲げる腱や動・静脈、そして正中神経の通路となっている。手根管症侯群とは、正中神経のニューロパシーで、小指がわの一部を除く掌側に、痛み・痺れ感・知覚低下、また拇指丘など手の筋肉の萎縮を症状とする。
       長期透析症例では、手根管の滑膜などの軟部組織に、アミロイドという蛋白(8) が蓄積するために、手根管が狭窄し、正中神経を圧迫することによって、手根管症侯群を発症する。
       手術(手根管解放術)によって狭窄を取り除けば、早期ならば症状は改善する。進行してしまえば、解放術によっても、痛みはとれても、痺れや筋力低下は残存することが多い。

  5. その他の合併症

    1. 多嚢胞化萎縮腎(ACDK)
       慢性糸球体腎炎などの腎疾患で末期腎不全に陥った場合、腎臓は高度の萎縮腎となっていることが多いが、透析導入後年数が経つにつれ、次第に多数の嚢胞が発達して腎臓が腫大に向かうことがしばしばある。このような状態を多嚢胞化萎縮腎(acquired cystic disease of the kidney:ACDK)と呼ぶ。ACDKでは、嚢胞が感染や出血の原因になることがあるほか、腎癌がここから発生することがある点で注目されている。

    2. 免疫不全
       腎不全では免疫能が広範に低下する。まずリンパ球T細胞の機能低下が目立ち、つまり細胞性免疫が低下している。また抗体の産生も軽度に低下し、好中球などの貪食能にも低下がみられる。また皮膚・粘膜での防御についても低下している。  このため感染症にかかりやすく、なかでも結核は、透析導入前後の発症が多く、X線で肺病変がみられなくても、抗結核薬が有効な、肺外結核をしばしば経験する。またウイルス性肝炎(B型またはC型)は、多くの場合慢性化しやすい。また悪性腫瘍の合併も健常者より多く、これも免疫不全との関連が想定される。ただし臓器移植の生着では有利に働いているかもしれない。

    3. 脂質代謝異常
       腎不全では、中性脂肪・VLDLコレステロールの増加やHDLコレステロールの低下が現われる。またCAPDを行っている場合は、高コレステロール血症を合併しやすい。

     特に長期透析患者では、虚血性心疾患や脳血管障害などの動脈硬化性疾患が、非透析者に比較して明らかに多い。これはアメリカでも日本でも共通な、統計学的事実である。原因は脂質代謝か、その他にあるのか、今のところ不明である。

  6. まとめ

     いわゆる長期透析合併症のうち、今回は血液・循環器・神経系の合併症を中心に解説した。これらの合併症は、患者の生活の質を低下させるばかりでなく、時には生命予後も左右する点が特徴である。  維持透析療法は、血液透析にしても腹膜透析にしても、最近 20〜30 年の間に著しく進歩し、普及した結果、末期腎不全患者の長期生存を可能にした。しかしそういう患者は、腎不全の状態で生存を続けるわけであり、そのひとたちのからだにおきること(つまり長期透析合併症)をみると、ふだん腎臓がどんなことをしてくれているのか、あらためて思い知らされる。
     この他にも、例えば小児腎不全例では、成長・発達の障害が深刻である。
     これら長期透析合併症は、透析関連技術の進歩や、腎不全の病態の解明によって、以前より格段に管理しやすくはなった。しかし今なお、健常者との身体的な差は大きい。
     腎不全の管理手段のさらなる進歩とともに、腎移植の普及が望まれる。



    脚注
     超初心者のための臨床腎臓病学  
    1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
    5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

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