日本血液浄化技術研究会  ホームページ 

 超初心者のための臨床腎臓病学  
1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2


長期透析合併症〜U 骨・関節
Post Graduate Nephrology No.8

Post Graduate Nephrology No.8 今回の内容
長期透析合併症の中でも、近年特に注目されている分野が、今回解説する『骨・関節』 合併症である。これらは多くの場合、生命予後には関係しないが、患者のADLを損ない QOLを低下させる。さらに現在の治療では、これらを防ぐことが非常に難しい。
長期透析に伴う骨・関節合併症は、腎性骨異栄養症(ROD:特に二次性副甲状腺機能 亢進症とアルミニウム骨症)と透析アミロイドーシスが代表である。順に解説する。

  1. 慢性腎不全の骨・カルシウム代謝

    1. 腎不全におけるカルシウム・リン代謝異常の概略
       腎不全では、カルシウムとリンの代謝にさまざまな異常が出現する。一方、骨は、蛋白質の基礎に、カルシウムとリンが沈着したものだから、カルシウム・リン代謝の異常は、骨代謝の異常と同じ意味となる。腎不全におけるカルシウムとリンの代謝異常を図示すると、下図(図1)のようになる。


      図1 腎不全におけるCaとP(リン)代謝障害

       腎不全の骨代謝異常で、まず出現するのは、

          @リンの蓄積   A活性型 vitamin Dの欠乏(1)

       のふたつである。Vitamin Dは、腸管からのカルシウム吸収の促進などを通じて、血中カルシウム濃度を保つはたらきをしているが、活性型になるには、腎臓で代謝を受ける必要がある。このため腎不全になると、活性型 vitamin D の欠乏(2) が起こる。他方では、腎からの排泄低下により血中のリンが高値となるが、カルシウムとリンは、血液中ではたがいの積が一定になるようにふるまう(3) ため、リンの上昇は結局低カルシウム血症をもたらす。そしてカルシウム上昇作用を持つもうひとつのホルモンである、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が刺激され、この結果骨質が融解されてカルシウムが血中に放出される。また腎不全に伴う代謝性アシドーシスも、これを中和する目的で骨からのカルシウム溶出が促進される。

    2. 腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy:ROD)
       上記のような代謝異常を基礎として、腎不全患者にはさまざまな骨合併症が現われる。これらを総称して『腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy)』といい、よくRODと略される。重症のRODでは、骨痛・骨折・骨格の変形などのために患者のADLを低下させる。RODは単一の病態ではなく、複数の病態が重なったもので、患者個々によって症状やX線所見が異なる。RODは次の3種の病態がいろいろな程度に混合したものと考えることができる。

      1. 線維性骨炎〜副甲状腺機能亢進症(ここでは二次性)によるもので、骨からカルシウムが抜け出していることを示し、X線上では骨膜下骨吸収像などを特徴とする。
      2. 骨軟化症〜活性型 vitamin D の欠乏やアルミニウムの骨への沈着などのため、骨へのカルシウムの沈着が障害され、このため骨の変形や病的骨折などをきたす。
      3. 骨粗鬆症〜腎不全でなくても高齢者には合併する。骨量が減少し、骨が菲薄になった状態である。

        そして、これらと関連して、

      4. 異所性石灰化(関節周囲・結膜・血管壁のカルシウム沈着)がみられることがある。異所性石灰化は、関節炎や結膜充血(red eye)、皮膚掻痒などの症状をもたらすほか、肺胞への石灰沈着のために低酸素血症をきたす こともある。

  2. 二次性副甲状腺機能亢進症

    1. 病態
       副甲状腺は、甲状腺のへりに普通合計4腺あって、正常では大きさは米つぶよりかなり小さい程度である。これが分泌する副甲状腺ホルモン(PTH)は、骨を『壊して』血中へカルシウムとリンを放出させる。PTHは少なくともふたつの刺激、つまり、血清カルシウムの低下と活性型 vitamin D の欠乏によって分泌を促進される。したがって腎不全では、副甲状腺の機能が亢進する傾向となる(図1)。 またこの状態が高度に長期続いた場合、しばしば(低カルシウムでなく)高カルシウム血症を伴うようになり(4) 、ここに活性型 vitamin D を投与すると高カルシウム血症はさらに促進される。
       このような二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism)は、透析患者の多くに潜在的に存在し、軽症では無症状だが、重症になると、骨痛・病的骨折・骨格変形・身長の短縮などを生じる一方で、全身の異所性石灰化を伴うことが多い。異所性石灰化の最重症型は、動脈の閉塞によって末梢組織の虚血性壊死をきたすもので、calcifilaxis と呼ばれる。また皮膚掻痒・筋力低下・腱断裂も起ることがある。

    2. 治療手段
       保存的治療には、基本的には次のふたつの戦略しかない。

      @カルシウム・リンの管理 A活性型 vitamin D の投与    である。

       具体的には、食事のリン制限や、炭酸カルシウム等の経口リン吸着剤、そして 1α(OH)D3 または 1,25(OH)2D3 を用いて、血清リンを透析前で 5.0〜5.5mg/dl 以下に、また血清カルシウムとリンの積を 50 程度以下に管理する。予防はこれで充分であり、比較的軽症または罹病歴の短いものはこれだけで改善に向かうことが多い。しかし、なかには炭酸カルシウムや活性型 vitaminD を使用すると、高カルシウム血症、そして異所性石灰化を招いてしまう場合もまれでない。
       このような場合には、最近活性型 vitamin D パルス療法が導入され、効果をあげてきた。これは 1,25(OH)2D3 を1回 4μg(ロカルトロール 16 カプセル)の大量を、週1〜2回透析後に内服(5) するもので、前述の通常治療に反応しないものにも有効なことがある。
       しかしパルス療法ですべて治癒するとは限らず、開始後数か月の経過で、PTHが十分下がる前に、高カルシウム血症のために活性型 vitamin D の減量を余儀なくされることも多い。
       さらに骨痛が続くもの、低身長を来しつつあるもの、掻痒のひどいもの、calcifilaxis では、副甲状腺摘除(PTX)が必要である。以前は亜全摘が行われたが、最近は再発した時に頸部の再手術を避ける意味から、副甲状腺全摘と皮下への自家移植が選択されることが多い。

  3. 骨軟化症

    1. 腎不全における骨軟化症のふたつの病態
       保存期腎不全や透析導入時期にも、活性型 vitamin D の欠乏や低カルシウム血症のために骨軟化症を起こす可能性はあるが、この原因による純粋な骨軟化症は、現在我が国では少数派である(6) 。また治療も活性型 vitamin D と炭酸カルシウムなどで比較的簡単にできる。
       長期透析例に難治性の骨軟化症をもたらすのは、骨へのアルミニウム沈着による、いわゆるアルミニウム骨症である(7) 。アルミニウムは食事や飲料水、薬剤(制酸剤やアルミゲル)、透析液などから体内に入り、骨だけでなく、中枢神経など全身に蓄積し得る。
       臨床的には、骨痛・関節痛・病的骨折などを症状とし、活性型 vitamin D を投与しても改善せず、むしろこれにより容易に高カルシウム血症をきたすのが特徴である。

    2. アルミニウム骨症とデスフェラール
       アルミニウム骨症の予防は、アルミを含む薬剤の禁止、透析液の水処理などで行う。しかし一旦組織に沈着したアルミを除去するのは、現在 deferoxiamine(デスフェラール:DFO)しかない。
       DFOは組織に沈着したアルミニウムと結合し、これを血液中へ引き出す。さらに透析でこの結合物を除去する。週1〜2回、1回 0.5gといった少量でも、骨痛の軽減が報告されている。DFOを大量に使用しても、有効性にあまり差がなく、逆に視力障害や聴力障害などの副作用の頻度を増やす。またDFO使用後の透析患者で、一般には極めてまれな感染症である、ムーコル症やエルシニア感染の報告があり、注意を要する。


      図2 デスフェラールテスト

       またDFOは、透析患者の体内に、アルミの沈着が起きているかどうかの診断にも利用される(デスフェラールテスト:図2。体重あたり 40mg のDFOを投与し、2日後の透析前の血清アルミニウム濃度[2]が、投与前[1]と比較して、150〜200μg/l 以上上昇する場合を陽性、つまり体内(骨とは限らない)へのアルミ沈着があると判断する。

  4. アミロイドーシス

    1. β2-マイクログロブリン、そして透析アミロイドーシスとは?
       β2-マイクログロブリン(β2-M)は、体内に存在する蛋白の一種で、分子量は約11,800である。β2-Mはリンパ球などで産生されるが、腎尿細管で分解されるため、腎機能の低下にしたがって血中・尿中に増加する。このことからβ2-Mは、腎機能の指標として検査に利用されてきた。β2-Mは腎以外の代謝経路がほとんどないため、末期腎不全では正常の50倍程度にまで血中に増加する。
       アミロイドーシスとは、アミロイドという特殊な蛋白が臓器・組織に沈着し、臓器の障害をきたす疾患であって、これまで全身性のアミロイドーシスは数種類の疾患が知られていた。ところが長期透析例に骨・関節を中心としたアミロイドーシスが合併することが明らかになり、『透析アミロイドーシス』と呼ばれていた。そして 1985年 この透析アミロイドーシスの原因物質がβ2-Mであることが報告され、急速に注目を集めるにいたった(8)

    2. 透析アミロイドーシスの臨床像
       透析アミロイドーシスは、多彩な症状を示す(表3)。

      表3  透析アミロイドーシスの主要症状
      1)手根管症侯群
      2)バネ指
      3)破壊性脊椎関節症
      4)その他の関節症状
        肩痛・股間節痛・膝関節痛など
       (臥床時痛・正座・和式トイレ使用不能)
      5)骨嚢胞・関節周囲嚢胞
      (骨X線透亮像)
      6)病的骨折
      7)虚血性胃腸疾患
      8)その他
         尿路結石・皮下腫瘤など

       手根管は手首の手のひらがわにある、骨で三方を囲まれたトンネルで、正中神経や屈筋腱の通路となっている。ここが狭窄して正中神経が圧迫され、手の痛み・しびれ・筋力低下・筋萎縮などを呈する状態が手根管症候群(carpaltunnel syndrome ;CTS)である。この場合狭窄はβ2-Mが沈着するためであり、 なぜかシャント側に頻度がより高いといわれる。 その他については個々の説明を省くが、β2- Mは関節およびその周囲に好んで沈着し、炎症 を呼び起こして周囲の骨を破壊し、その結果骨痛などの症状をきたす。また透析が長期になるにつれ、しだいに心臓・腸管などの全身臓器の血管壁などへと沈着が進行する症例がある。

    3. 対策はあるか?
       β2-Mは通常の透析で除去されなかったため、透析患者の体内に蓄積されていた。ところが最近開発された high-flux membrane とか high-performance membrane と呼ばれる透析膜であるていど除去できるようになった。実際にアミロイドーシスにより骨・関節痛を訴える患者をこういった膜で治療すると、比較的短期間に症状が改善することがしばしばある。しかし現実は週3回の治療で一週間のβ2-M産生量を除去することは困難で、前述の治療は実はアミロイドの除去とは違うメカニズムで除痛しているものと考えられている。β2-Mの血中濃度にしても、臨床的にアミロイドーシスを発症する人のほうがそうでない人よりも高いとは限らず(9) 、どの程度の血中濃度に維持できれば予防できるかについては、解明されていない。

       一方で最近注目されているのは、透析膜と接触した白血球(特に単球)から、モノカインと呼ばれる物質(おそらく複数)が分泌され、これがβ2-Mの産生を亢進させ、透析アミロイドーシスの原因となっていると言う仮説(モノカイン仮説)である。これによれば、白血球への刺激の少ない、つまり補体の活性化などの少ない、いわゆる生体適合性に優れた膜(10) で治療すべきだと言うことになる。が、結論はまだ出ていない。
       また透析液に混入した微量の異物(とくにエンドトキシンの断片などが注目されている)が、体内に侵入し、これに対する生体の反応によってβ2-Mの産生が亢進するという説も有力である。

       今後の対策としては、やはりβ2-M除去法の工夫に加え、代謝動態の研究を進め、できれば産生を抑制する工夫を検討する必要があると考える。また腎移植は最高の治療法で、体内のβ2-Mが腎臓によってどんどん除去される。しかしアミロイドのかたちですでに沈着したものは、もし取れるとしても非常にゆっくりであろうと考えられている。
       姑息的な除痛の手段としては、前述の hi-flux 膜による血液透析や、血液透析からCAPDへの変更、ステロイド剤の投与も経験上有効である。
       なお手根管症侯群に限っては、早期の手術(手根管開放術)によって神経症状(痛み・しびれ・筋力低下)を改善させることができる。手術時期が遅れると、開放術を行っても、痛みのみの部分的改善に終わることが多い。

  5. まとめ

     エリスロポエチン(EPO)の登場によって、腎性貧血の管理が非常に進歩した現在、RODとアミロイドーシスが長期透析合併症として最も注目されるようになった。これらは長期透析合併症の分野のうちで、いま最も大規模に研究が進められ、病態の解明が進んでいる。これらの『リウマチ的』合併症は、生命予後にはほとんど関係しないかもしれないが、透析患者のADLには深刻な影響を及ぼし、社会生活を阻害する点では重要である。
     治療・予防ともに完璧な方法はまだ無いと言えるが、最近の病態の解明の進歩からみて、今後対策の確立に向けて、期待がもたれる状況である。



    脚注
     超初心者のための臨床腎臓病学  
    1.腎臓病学へのイントロダクション   2.観察と病歴聴取のポイント   3.腎不全 ほわっと?   4.腎不全の保存療法
    5.What's血液透析   6.血液透析の短期合併症   7.長期透析合併症〜1   8.長期透析合併症〜2

    【前に戻る】