| 日本血液浄化技術研究会 | ![]() | ホームページ |
| 弱酸性電解生成水の殺菌効果と透析への応用 |
| 電解生成水とは |
| 概念 |
水道水に少量の食塩(NaCl)及び塩酸(HCl)を加え電気分解すると、強力で瞬間的な殺菌作用を有する水が生成され、これを弱酸性電解生成水(以下弱酸性水)という。
「弱酸性」とは、そのpH(水素イオン濃度)値が5.0〜5.5と弱酸性領域に保たれている状態を指す。
| 性質 |
電解生成水の殺菌作用を担うのは、そこに残留する塩素化合物(以下残留塩素)である。
残留塩素には次亜塩素酸(HOCl)、次亜塩素酸イオン(OCl-)、塩素分子(Cl2)等があり、これらの電解生成水中の濃度を残留塩素濃度という。殺菌に必要な残留塩素濃度は、一般細菌に対しては0.1ppm(0.1mg/L)程度といわれている。尚、塩素イオン(Cl-)は殺菌作用を持たない。又、残留塩素は電解生成水のpH値により以下の様に形態を変えることが知られている。

pH値上昇により右方移動し、低下により左方移動する。即ち
殺菌力という点で電解生成水に望まれる条件は、最も殺菌力の強い残留塩素を最も高率に含むこととなる。だが、殺菌力のみでの判断は危険である。使用時の人体や機器への影響、廃液の環境への影響等を併せた総合的な判断が必要となる。これらを念頭に置いた、殺菌洗浄剤の適切な選択が重要となる。
| 殺菌洗浄剤としての弱酸性水の適合性 |
| 概念 |
| 性質 |
図1はE.Coli(大腸菌群)を99%殺菌するに要する残留塩素ごとの時間(分)を表すが、残留塩素濃度0.1mg/L(0.1ppm)時においては、次亜塩素酸の1.5分に対し、次亜塩素酸イオンは実に120分を要する。一般に「残留塩素の殺菌力は次亜塩素酸が最も強く、それは次亜塩素酸イオンの80倍」といわれる所以がここにある。従って、”弱酸性水は次亜塩素酸を最も高率に含み、その殺菌力は強酸性水および次亜塩素酸ナトリウムを凌ぐ” といえる。

殺菌効果の比較を表1に示す。
| 各溶液における金属酸化(錆び形成)作用 | |||||
| 供試水 pH 残留塩素濃度(ppm) | 水道水 5.6〜8.6 0.1〜0.6 | 次亜塩素酸 ナトリウム 8.83 200 | 弱酸性 電解生成水 5.50 50 | 強酸性 電解生成水 2.51 40 | |
| Fe | + | +++ | + | + | |
| 真鍮 | Zn Cu | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 | − |
| ステンレス SUS304 | Fe Cr Ni | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 | − |
| ステンレス SUS316 | Fe Cr Ni | − | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 | 酸化膜形成 |
| *金属片漬浸後50時間経過後の、目視による観察結果 *表の見方 +:金属面への酸化物(さび)の形成が認められたことを意味する (+が多い程、酸化物の形成程度が強いことを表す) −:金属面への酸化物(さび)の形成が認められないことを意味する *酸化被膜:金属の表面のみに薄い酸化物が形成された状態。酸化被膜の形成により その金属の酸化はそれ以上進行しなくなり、結果的に金属腐食から保護 される。 | |||||
| 各溶液における金属イオンの溶出量(単位:ppm) | |||||
| 供試水 pH 残留塩素濃度(ppm) | 水道水 5.6〜8.6 0.1〜0.6 | 次亜塩素酸 ナトリウム 8.83 200 | 弱酸性 電解生成水 5.50 50 | 強酸性 電解生成水 2.51 40 | |
| Fe | 0.3以下 | 0.3以下 | 11.4 | 61.7 | |
| 真鍮 | Zn Cu | 1.2以下 0.02以下 | 0.3以下 0.06 | 19.5 0.08 | 112.1 0.22 |
| ステンレス SUS304 | Fe Cr Ni | 0.03 0 0 | 0.02 0.01 0 | 0.06 0.01 0.01 | 3.73 0.64 0.45 |
| ステンレス SUS316 | Fe Cr Ni | 0 0 0 | 0.025 0 0 | 0 0 0 | 2.5 0 0 |
| *数値は、金属片浸漬後50時間経過時の値 数値が大きい程、電解生成水の各金属に対する溶出作用は 強いことを意味する | |||||
一般に金属腐食には、酸化物形成(いわゆる"さび")と金属イオンの溶出、の2種がある。
何れも金属機器の破損に繋がるため、電解生成水の金属腐食性は可能な限り軽度であることが望ましい。電解生成水ごとの金属腐食性実験結果(要約)を表2に示す。
弱酸性水の排水時は、排水中の残留塩素が環境破壊に繋がらないか、という点が懸念される。一般に弱酸性水の殺菌作用は瞬間的で、還元物質(被殺菌物、有機物)との反応で容易に消失することが知られている。
又、低濃度で十分な殺菌効果を有するため(pH5.5付近で次亜塩素酸ナトリウムを200ppmに希釈した場合と同等以上の効果あり)、排水時に一般排水と混合すれば一般排水中の有機物との反応で速やかに殺菌力は失われ、浄化槽内の有機物への悪影響は殆どない、といえる。
| 弱酸性水を用いた透析装置及び配管系の殺菌洗浄 |
| 人工透析装置の殺菌洗浄に求められる条件 |
弱酸性水がこれらを充足することは、前記の通りである。
| 弱酸性水を用いた透析装置および配管系の殺菌洗浄法 |

基本的方法を図3に示す。弱酸性水での消毒1後、弱酸性水とRO水混合水で再度消毒2を施行し、後水洗後に弱酸性水(0.8〜1.0ppm)とRO水混合液を翌朝まで滞留させる。低濃度の弱酸性水を装置内に滞留させることにより、夜間の細菌増殖抑制が可能となる。
| ベッド数 | 行程及び時間 | ||||||||
| 日時 | 水洗 (RO水) | 液置換 (RO水-透析液) | 透析 | 前水洗 (RO水) | 消毒1 (弱酸性水) | 消毒2 (弱酸性水+RO水) | 後水洗 (RO水) | 事後処理 | |
| 30床 | 月〜土 | 40分 | 30分 | 4〜5時間 | 20分 | 20分 | 30分 | 10分 | 滞留 6時間 |
|
装置内には、消毒2で用いた弱酸性水+RO水が貯留 0.8〜1ppmの弱酸性水を滞留させることにより、装置内の細菌増殖抑制が可能 | |||||||||
| まとめ |
弱酸性水は、殺菌効果においては低濃度で従来の殺菌洗浄剤と同等の効果を持つ一方、人体・機器類や環境へ与える悪影響は軽度で、透析装置及び配管系の殺菌洗浄剤としてより優れている、と言える。既に多くの医療機関にて人工透析装置の殺菌洗浄剤として活用され、その有効性については多くの報告がなされている。2) 3) 4)
今後、その優れた殺菌洗浄剤としての認識が更に深まり、それが患者、医療スタッフの安全性、透析装置や環境の保護、消毒時間の短縮、経済性といった、透析療法に求められる様々な条件の充足につながることを期待する。