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| セクション3
透析液 |
| 透析液の歴史 |
最初の血液透析の実験は、アメリカのAbelにより1912年に行われている。このときの実験で使われた透析液は0.6%の食塩水だった。その後、血液透析に使用する透析液は、生理食塩水やリンゲル液が使用されていた。そして現在の透析液のように、血液透析専用の透析液を発表したのは1947年のKolffであった。この透析液は、低ナトリウム・高カリウムでアルカリ剤として重炭酸を使い、浸透圧を上げ溶血を防ぐためにブドウ糖濃度を1500mg/dlにしていた。しかし、この透析液では、炭酸カルシウム防止のための工夫が必要だった。
1964年にMionらがアルカリ剤として重炭酸の代わりに酢酸を導入した事によって、透析液は大きく変化する事になった。重炭酸を含まないため透析液は1剤化し高濃度原液が可能になり、希釈装置で大量・多人数への透析液供給が可能になった。酢酸透析液が透析療法の普及に貢献したことは事実である。
しかし、普及した酢酸透析液も、ダイアライザーの高性能化や患者の多様化により、酢酸自体が持つ問題が報告され、より生理的な重炭酸透析液の使用に注目がおかれるようになる。そして、新しい透析機器の開発などにより、アルカリ剤として重炭酸を主流とした透析液が使用されるようになった。現在ではアルカリ剤に重炭酸を用いた透析液が主流になっている。
| 透析液とは、 |
透析液は、患者の体液の異常を十分に是正し、副作用のないものでなければならない。基本的に透析液は以下の条件を満たしている必要がある。
| 種類 | 会社 | 種別 | 希釈後の電解質濃度(mEq/L) | mg/dl | A剤(L) | B剤 | ||||||
| Na | K | Ca | Mg | Cl | HCO3 | Acet | ブドウ糖 | |||||
| AK-ソリタC | 清水製薬 | 重曹 | 135 | 2.5 | 3 | 1.5 | 107
(109) |
27.5 | 7.5 | - | 11 | 890g |
| AK-ソリタDL
AK-ソリタDP |
清水製薬 | 重曹 | 140 | 2 | 3 | 1 | 111
(113) |
25 | 10 | 100 | 9 | 11.5L
672g |
| AK-ソリタFL
AK-ソリタFP |
清水製薬 | 重曹 | 143 | 2 | 2.5 | 1 | 112
(114) |
27.5 | 9 | 100 | 9 | 11.5L
738g |
| キンダリー液AF-1号
キンダリー液AF-1P号 キンダリー液AF-1S号 |
扶桑薬品 | 重曹 | 135 | 2.5 | 3.5 | 1.5 | 106.5 | 30 | 6(8) | - | 9
10 10 |
11.34L
882g 928g |
| キンダリー液AF-2号
キンダリー液AF-2P号 キンダリー液AF-2S号 |
扶桑薬品 | 重曹 | 140 | 2 | 3 | 1 | 110 | 30 | 6(8) | 100 | 9
10 10 |
11.34L
882g 928g |
| キンダリー液AF-3号
キンダリー液AF-3P号 キンダリー液AF-3S号 |
扶桑薬品 | 重曹 | 140 | 2 | 2.5 | 1 | 112.5
(114.5) |
30 | 8 | 150 | 9
10 10 |
11.34L
735g 774g |
| AK-ソリタ | 清水製薬 | 酢酸 | 132 | 2 | 2.5 | 1.5 | 105 | - | 33 | 200 | 11 | - |
| AK-ソリタB | 清水製薬 | 酢酸 | 135 | 2 | 3.5 | 1.5 | 105 | - | 37 | 200 | 11 | - |
| AK-ソリタM | 清水製薬 | 酢酸 | 130 | 2 | 3 | 1 | 101 | - | 35 | - | 11 | - |
| AK-ソリタM-Na140 | 清水製薬 | 酢酸 | 140 | 2 | 3 | 1 | 108 | - | 38 | - | 11 | - |
| キンダリー液GF号 | 扶桑薬品 | 酢酸 | 135 | 2 | 3.75 | 1.5 | 105.25 | - | 37 | - | 10 | - |
| キンダリー液2号 | 扶桑薬品 | 酢酸 | 132 | 2 | 2.5 | 1.5 | 105 | - | 33 | 200 | 10 | - |
| キンダリー液3号 | 扶桑薬品 | 酢酸 | 132 | 2 | 3.5 | 1.5 | 104 | - | 35 | 200 | 10 | - |
| ○ Cl、Acet.内の( )はpH調整剤の塩酸・氷酢酸透析液を含めた場合 | ||||||||||||
| ナトリウム濃度 |
当初は、ナトリウム濃度が低く設定され、拡散でナトリウムの除去を行ってきたが、ダイアライザーや透析機器の性能が向上し、血漿中に多く含まれるナトリウムは、拡散よりも濾過で抜くことが可能になった。そのため透析液のナトリウム濃度は血漿中のナトリウム濃度とほぼ同等か若干高く設定されることが多くなった。最近の透析液のナトリウム濃度は140mEq/lが多くなっている。常時血圧が低く、透析中に著しい低血圧を起こす症例の場合、高ナトリウム透析液を使用すると有効な場合もある。
| カリウム濃度 |
現在の透析患者では、カリウム濃度2.5mEq/lの透析液を使用し続けた場合、透析時のカリウム除去が十分に行われず、高カリウム血症を起こす症例が増えてきた。エリスロポエチン使用によるものや、社会生活の向上によって高カリウムを来しやすくなっているうえ、特に食事管理が悪い患者や透析時間や回数が少ない患者ではその傾向が多く見られる。これらの理由により、最近ではカリウム濃度2.0mEq/lの透析液を使用することが多くなってきている。しかし、導入時の患者など透析開始時のカリウム濃度が高くない場合では、逆に透析終了時のカリウム濃度が低くなりすぎ、カリウム濃度の変更を必要とする。
| カルシウム濃度 |
低カルシウム血症は腎性骨症の原因になるので、これらの是正は重要であり、不足すること無いように適切に維持する必要がある。不足しているカルシウムを補うために、透析液のカルシウム濃度は3.5mEq/l前後が望ましいと言われていたが、最近では、高リン血症の抑制に使われていた水酸化アルミニウムの経口投与が炭酸カルシウムなどに替わり、経口のビタミンD製剤と相まって、透析液のカルシウム濃度が3.0〜3.5mEq/lでも高カルシウム血症を起こす場合がある。最近では、透析液でカルシウムを補充することなく、逆に除去する事を目的に、カルシウム濃度を2.5mEq/lと低めに設定した透析液が発売されている。
| アルカリ剤 |
初期の頃は、アルカリ剤として重炭酸が使用されていたが、濃度の保持や炭酸カルシウムの析出などの問題により、使用が簡便な酢酸が用いられるようになった。酢酸は代謝速度も速く、効率よくアシドーシスを是正する事が可能ではあるが、酢酸のもつ循環器系への影響や、酢酸不耐症の問題も起きることになった。そのため、酢酸の使用を減らし、より生理的な重炭酸を使用する透析液へ再び移行している。
| ブドウ糖 |
酢酸透析液から重炭酸透析液への移行に伴い、透析液中の細菌繁殖を防止するために最近まで透析液には含まれていなかったが、血漿中のブドウ糖の損失や、糖尿病性腎不全患者の増加のため、最近では100〜150mg/dl程度のブドウ糖を付加することになった。
| マグネシウム濃度 |
従来1.5mEq/lの透析液が多く用いられてきたが、この濃度では多くの患者で高マグネシウム血症が継続するために、最近では1.0mEq/lの透析液が一般化しつつある。
| 透析液の形態 |
酢酸を用いた透析液の場合は、濃厚原液は1剤のみとなるが、アルカリ剤に重炭酸を使用している透析液の場合、濃厚原液として1剤化が不可能になる。そのため、A剤とB剤の2つに分けて供給される。内容は、重炭酸を含まない透析液の濃厚原液と、重炭酸の粉末または水溶液のB剤である。B剤が粉末の場合は使用する前に溶解する。
酢酸透析液の場合は、原液のみを希釈して透析療法に使用することができるが、重炭酸透析液は2剤化しているので、A剤・B剤を希釈・混合することなる。そのため、重炭酸透析液には専用の透析液供給装置が必要になる。また、B剤が粉末の場合には溶解するための専用の装置も必要となる。
最近では、透析液のクリーン化や保管場所の削減、輸送及び医療従事者の省力化などから、すべて粉末の透析液が登場している。
| 透析液の作成 |
透析療法を行うとき、必要に応じて透析液の各成分濃度を変える場合がある。濃度を上げる場合には上げたい成分を透析液原液または透析液に追加すればいい。しかし、透析液濃度を下げたい場合は、透析液を作成する必要がある。
現在、透析液は濃縮液として多くの種類が販売されているが、透析液の内容は単純である。6種類の塩とブドウ糖を水に溶かすだけで透析液は作ることができる。透析液を作成するために必要な成分は表2に示す通りである。但し、酢酸透析液の場合には炭酸水素ナトリウムは必要ない。
| 原薬名 | 分子式 | 分子量 |
| 塩化ナトリウム | NaCl | 58.44 |
| 塩化カリウム | KCl | 74.55 |
| 塩化カルシウム | CaCl2・2H2O | 147.01 |
| CaCl2 | 110.99 | |
| 塩化マグネシウム | MgCl2・6H2O | 203.3 |
| 酢酸ナトリウム | CH3COONa・3H2O | 136.08 |
| CH3COONa | 82.03 | |
| 炭酸水素ナトリウム | NaHCO3 | 84.01 |
| ブドウ糖 | C6H12O6 | 180.16 |
ここでは一つの例として ナトリウム140mEq/l、カリウム2.0mEq/l、カルシウム2.5mEq/l、マグネシウム1.0mEq/l、アセテート10mEq/l、バイカーボ25mEq/l、ブドウ糖100mg/dlの透析液を100リットル作成するとしたときの各成分の量を表3に示す。これらを必要に応じて減量すれば組成の変更ができる。
では、上げる場合の計算方法を、表3の例を元に行う。
| 作成する透析液濃度 | ||
| Na 140mEq/L
K 2mEq/L Ca 2.5mEq/L Mg 1mEq/L HCO3 25mEq/L Acet 10mEq/L ブドウ糖 100mg/dl |
||
| 原薬名 | 100リットルに必要な量
(g) |
分子式 |
| 塩化ナトリウム | 613.62 | NaCl |
| 塩化カリウム | 14.91 | KCl |
| 塩化カルシウム | 18.38 | CaCl2・2H2O |
| 塩化マグネシウム | 10.17 | MgCl2・6H2O |
| 酢酸ナトリウム | 82.03 | CH3COONa |
| 炭酸水素ナトリウム | 210.03 | NaHCO3 |
| ブドウ糖 | 100 | C6H12O6 |
| 塩化ナトリウム |
表3の例であげた透析液のナトリウム濃度を5mEq/l上昇させる場合に必要な塩化ナトリウムを計算してみる。
まず、100lのナトリウムを5mEq/l上昇させる為には500mEq必要な事がわかる。ナトリウムは一価のイオンであるので、ナトリウム1mEqは1mmolに相当し、1mmolに必要な塩化ナトリウムの分子量は58.44であるため、1mEq=1mmol=58.44mgとなる。そこで必要な量は、58.44mg×500mEq=29.22gとなる。例の透析液に塩化ナトリウム29.22gを追加することで、ナトリウム濃度を145mEq/lにあげることができる。但し、クロールも同様に5mEq/l上昇する。
| 塩化カルシウム |
例の透析液のカルシウム濃度を0.5mEq/l上昇させる場合を考えてみる。
100lのカルシウムを0.5mEq/l上昇させるには50mEqのカルシウムが必要となる。ここで注意する点として、カルシウムは2価であるため、molを原子価で割った値が1mEqに相当する。1mmolに必要な塩化カルシウムは111mgであるため、1mEqに必要な量は55.5mgになる。そこで、55.5mg×50mEq=2.775gとなる。
カルシウムは、2価のイオンであるため計算に若干注意が必要になる。また、塩化カルシウム・塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウム分子に水分子(H2O)が着いている場合にはそれらも勘案する必要がある。
| 元素名 | 元素記号 | 原子量 |
| ナトリウム | Na | 22.99 |
| カリウム | K | 39.1 |
| カルシウム | Ca | 40.08 |
| マグネシウム | Mg | 24.31 |
| クロール | Cl | 35.45 |
| 水素 | H | 1.01 |
| 酸素 | O | 16 |
| 炭素 | C | 12.01 |
| 窒素 | N | 14.01 |
| リン | P | 30.97 |
| 終わりに |
透析液のアルカリ剤をはじめ各組成は、ダイアライザーの高性能化や透析機器の開発、ビタミンD製剤などの薬物や薬物療法の進歩と共に多くの検討と変更が行われている。今後もさらに適正な透析液を確立するために多くの研究・検討が必要である。 全体を通して言えることとして、透析液の変化は生体適合性を目標にして少しずつではあるが改良されているという事である。除去効率に優れ、生体恒常性に影響の少ない、生体に負担のない透析液が今後も望まれ、透析液の改良や開発進歩が期待される。